日本は今、「国家存亡の危機」に直面しています。その理由の一つはもちろん、損失額数十兆円と推計されている東日本大震災です。しかし我が国は、その何倍もの被害をもたらすことが危惧される「東海・南海・東南海地震」や「首都直下型地震」の危機にも直面しています。それらが30年以内に発生する確率は、前者が50~87%、後者が70%で、かつその確率は今回の大地震によって大きくなっているとも言われています。そしてあろうことか「富士山の噴火」の危機も迫って来ているのです――。
これらは皆、何も空想でも絵空事でもなく、科学的な根拠のある事実なのです。
筆者は、3月11日以降、日本がこうした国家存亡の危機を如何にすれば乗り越えられるかを考え続けてきました。本書はその内容を一般の方に向けてとりまとめたものです。
本書の骨子は、本年3月23日に開催された参議院予算委員会公聴会での、筆者の国会公述内容に基づいています。
「公聴会」というのは、国会での決議の前に、学識経験者等から意見を聴くための機会で、国会法にてその開催が定められています。当初この公聴会は、3月15日に予定されていました。
しかし、かの3月11日、我が国は東日本大震災に見舞われてしまいました。筆者は11日、12日、13日と、ニュースで次々と流される未曾有の被害の数々を目の当たりにして、ただ茫然とするばかりでした。そして、国会での審議は当面見送られ、公聴会も延期となりました。しかしその後、「3月23日」に開催するとの連絡が入って参りました。
筆者はその時、今この国会で学識経験者に求められているのは、次年度の国家予算だけではなく、この「国難」を乗り越えるために必要な当面の予算枠組み全体の基礎となる「長期ヴィジョンの提示」なのではないかと思い至りました。無論、残された時間は10日しかなく、かつ、筆者にそれが可能かどうか心許(もと)なく感じましたが、逆に言えば、10日もあれば十分に可能ではないか、とも考えました。
こうして筆者は、経済、産業、巨大災害、国土計画といった様々な(筆者がよく存じ上げている)専門家の皆さんと意見交換を重ねながら『日本復興計画~「東日本復活5年計画」と「列島強靭化10年計画」』を緊急提案として策定し、これを公述致しました。この計画は、東日本と日本経済を5年で復活させ、これからさらに訪れるであろう数々の巨大震災をも乗り越えうる「強靭さ」を10年で手に入れるためのものでした。
その策定にあたって、筆者がその中心に据えたのが、
「強靭さ」(レジリエンス)
という考え方でした。これは要するに、「どんな衝撃があっても乗り越えられる性質」で、例えば「柳の木」の様な「しなやかさ」を意味します。
今回の東日本大震災から立ち直るために必要なのは、大きな衝撃の後もまた元に回復するしなやかな回復力です。そして、数々の巨大地震に対して必要とされているのも、致命傷を受けず、再び「柳の木」の様に元通りになることができる、そんなしなやかな強靭さです。そんな強靭さを手に入れる「列島強靭化」が可能となるなら、我が国は永続的な繁栄を続け、日本国民は長らく安寧の内に暮らしていけるに違いない――これが、筆者が構想したヴィジョンです。
国会の公聴会では、以上の「ヴィジョン」とその「道のり」を公述しましたが、それだけで日本がその方向に向けて歩み出すことになるとは到底思えません。なぜなら、様々な職場や地域で一人一人の日本人が紡(つむ)ぎ出す「実践」の集積によってはじめて、日本という国のかたちが変わっていくこととなるからです。
こうした思いで、一人でも多くの日本人にそのヴィジョンを問うことを目途としてとりまとめたのが、本書『列島強靭化論』です。
本書ではまず、今回の震災で激甚なる被害を受けた東日本を、さらにはその地に息づく「ふるさと」をどのように再生するのか、そして、この震災によって深手を負った深刻なデフレ不況下にある「日本経済」をどうやって復活させるのかを論じました。さらには、そのための財源をどう確保するのかについても、財政と経済、金融、税制を見据えながら併せて論じました。
それと同時に、今私たちが直面している数々の自然災害の危機がどれほど「巨大な被害」をもたらすのか、そしてどれほど「確からしい確率で起こるものなのか」を客観的に論じました。その上でそれらにどのように立ち向かうべきなのかを、一つ一つの街や村、あるいは、個々の会社のビジネスのあり方から、首都機能分散論を含めた「国土計画」のあり方に至るまで、一つずつ論じました。こうした諸事業を、短期集中的に推進してはじめて、我が国の「強靭化」が可能となるのです。
――本書『列島強靭化論』は、この様に、経済や財政、国土計画といった諸問題を総合的に視野に収めながら「復興」「防災」を一挙に達成するためのヴィジョンと道のりをとりまとめたものです。一人でも多くの皆さんに本書にお目通し頂き、一人でも多くの方に、日本の生き残りをかけた数々の取り組みにご参画、ご支援いただくことを、そして、それを通して、一日も早い東日本の復活と、如何なる国難をも乗り越える「強靭さ」を我が国が確かに手に入れることを、心から祈念したいと思います。
(編集部註:なお、筆者は本書の印税を放棄し、小社を通じて震災復興のために役立てることで合意したことを付記致します)
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