働く中で誰もが味わう「理不尽」を「理論」で明快に解き明かし、「なぜ働くのか?」という問いに徹底的に向き合ったビジネス書『理不尽仕事論 「クソが!!」と思った時に読む本』。
本書の著者である坂井風太さんは、新卒でDeNAに入社後、複数の事業部を経て子会社代表取締役に就任。2022年に起業し、現在は人材育成・組織開発のプロフェッショナルとしてビジネス系YouTubeでも人気を博す存在に。しかし、ここに至るまでには中学時代から数々の大きな挫折があったそうで――。(全2回の1回目/2回目につづく)
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中学受験→名門私立中「栄光学園」を退学に
――本日は坂井さんのパーソナルなお話をお聞きしたいと思っています。小さい頃はどのようなご家庭で育ったのでしょうか?
坂井風太さん(以下、坂井) 「街録ch」みたいなインタビューじゃないですか(笑)。
小さい頃は、父親が広告代理店の経営をしていて、母親がアナウンサーだったんですよ。バリバリの「陽キャ」。バブリーな家庭でしたね。神奈川県の横須賀にある、リゾートマンションが開発された地区に住んでいました。そこに住む子たちって、みんな中学受験をするんですよ。兄も中学受験をしたので、私もその流れで自然と中学受験をすることになりました。
――子供の頃から勉強は得意だったのですか?
坂井 そうでもなかったんです。家ではほとんどゲームの「三國無双」しかしていなかった(笑)。というのも、みんながやっている勉強が無駄すぎると思っていたんです。「なんでこいつらはずっとノートに何回も何回も同じ文字を書いてるんだろう」と思って、そういう非効率な勉強をしなかった。ただ、自分なりの効率を追求してやってみたらバッと成績が伸びたので、栄光学園(「神奈川男子御三家」の一つとされる難関私立中)に入学することになりました。
入学前の小学6年生の頃に、学校のパンフレットを見たんです。そこに「入学者数:180人 卒業生数:171人」って書いてあったんです。「マイナス9って何?」と疑問に思ったのですが、それが伏線だったんです。入ったはいいけど、内部進学できずに退学になった。まさか自分がその「マイナス9」側になるとは思っていなかったですね。
なぜ人は不正を犯すのか?
――このお話は著書『理不尽仕事論』でも明かされていますが、この「中学退学」の顛末はどういったものだったのでしょうか。
坂井 学校には「イエローカード制度」というものがあって、3枚溜まると退学になるルールだったんです。私の場合は中学2年生の時に喧嘩などですでに2枚溜まっていて、中学3年生の7月にとうとう3枚目が溜まってしまったんです。体育の授業で「真っ白な靴しか使ってはいけない」という謎のルールがあったのですが、私はその日、靴を忘れ、とっさにバスケ部の先輩の靴を勝手に借りてしまった。そしたら帰りに体育教師が待ち伏せしていて。「お前だろ。お前が取ったんだろう。もう退学だ、終わりだ」って宣告されて、そのまま職員室に連れて行かれて裁きを受けました。
――そんなことで……?
坂井 そうです。しかしこの一件は、私の中で2つのことを考えるきっかけになりました。1つ目は、「なぜ人は不正を犯すのだろう」ということ。本来なら先生に「ごめんなさい、忘れました」と言うという選択をすべきなのに、この瞬間怒られないことを優先した結果、先輩の靴を黙って借りるという選択をしてしまった。
なぜそんなことをしたかというと、当時その体育の先生からずっと「お前、悪いことしてねえだろうな」と目をつけられていて、ものすごいプレッシャーと監視を感じていたからなんです。「あと1発何かやったら終わる」という恐怖の中で、「これ以上怒られるのが怖い」という感情が勝ってしまった。これって、私が今の仕事で向き合っている「組織の不正」が起きる構造と全く同じなんですよね。
――『理不尽仕事論』の中でも組織不正の原因に関して言及しているパートがありますね。
坂井 短期的な自分のストレスやプレッシャーを回避するために、長期的・倫理的には「悪」とされることをやってしまう。数値目標やプレッシャーによって、人は本来なら犯さないはずの不正を犯してしまうんです。
「普通って何ですか?」
坂井 そして2つ目は「普通」という概念への疑念です。退学が決まった時、教師から「お前、どうして普通になれなかったんだよ」と言われたんです。私が「普通って何ですか?」と聞き返したら、彼は答えなかった。「普通」を知らない人が、普通という概念で人を裁いていた。その瞬間に「世の中の道徳とか“良いとされている設定”は虚構なんだ」と思ったんです。
自分が教師から異常者扱いをされたことで、「じゃあ異常って何だろう」「なぜ人は不正を犯すんだろう」と突き詰めるようになり、高校1年生ぐらいの時から、良い・悪いを根本から問う倫理学の本をたくさん借りて考えるようになりました。
――この中学退学という事件が、後の坂井さんの考え方に大きく影響していたんですね。
坂井 「『闇落ち』しそうになったら、誰かの『おかげ』を思い出せ!」という章にも書きましたが、そこからはグレずにすごく品行方正な正義漢になりました。高校受験のために公立中学の生徒しかいない塾に夏から入ったんですが、急に「栄光学園から来たすごい奴がいる」という謎の状況になって(笑)。いじめられたりすることは一切なく、みんな面白がってくれて、すごく仲良くなったんです。だから「1回レールを外れたと思っても、見てくれている人はいるんだ」と、反省して自分の面白さに変えようと思えました。
スクールカースト最下層→東大受験に失敗
――その後、神奈川県立横浜翠嵐高校に進学されます。高校生活は順調でしたか?
坂井 いや、全然順調じゃなかったですよ(笑)。翠嵐は少し変わっていて、ダンスが上手いかどうかでスクールカーストが決まる高校なのに、僕は椎間板ヘルニアを患っていたこともあって、カーストの最下層としてずっと図書館に引きこもっていました。三島由紀夫や大江健三郎の文学や、サルトルなどの哲学書も読み漁りました。
――三島由紀夫や大江健三郎に没頭している高校生はなかなか鬱屈としているでしょうね。大学受験は?
坂井 大学受験も挫折ですね。高校時代、成績はほぼトップだったから、「じゃあ東大に行けばいいだろう」と思って。当時付き合っていた彼女が東大志望だったことにも影響されて、東大法学部を目指すことにしました。
模試でA判定やB判定が出ていたから自信満々で、母を連れて合格発表を見に行ったんです。電車の中でも合格最低点を確認して「余裕じゃん」とか言っていたのに、掲示板を見たら「あれ? 番号がない」。帰り道はめちゃくちゃ辛くて、母には申し訳なかったんですけど「ちょっと辛いから違う車両で帰る」と言って、ひとりで帰りました(笑)。でも彼女に「落ちてた、どうしよう」とメールしたら、「関係ない」って返ってきて。それで「あ、関係ないんだ」と復活して、合格した早稲田大学へ進学しました。
父の自己破産と母からのメール「あなたは私の子じゃない」
――早稲田大学在学中に、お父様の会社の倒産という大きな試練に見舞われます。
坂井 そうですね。リーマンショックから東日本大震災にかけて実家の家業が一気に傾き、大学生の時に自己破産しました。それまで私は、「スター・ウォーズ理論」というものを持っていて、「自分の人生には都合よく銃弾が当たらない」「不幸というものは常に向こう側の世界にある」と思い込んでいたんです。いわゆる正常性バイアスですね。でも、実際に倒産を経験して「倒産するんかい!」と。「誰の身にも急に不幸は起きるんだ」と痛感し、人生に対して一切の油断がなくなりました。
その時にはもう両親は離婚していて、僕が間に入って仲裁役をしている状況でした。ある日、私が父親の肩を持ったことが母親の癇に障ったのか、母から突然メールで「あなたは私の子じゃない」「お父さんの血が入ってる」と激怒されたんです。
――実のお母様からそんな言葉を投げかけられて、子供の立場としては悲しかったのではないですか?
坂井 悲しかったですけど、不思議と怒りはありませんでした。母はもともと貧しい家庭からアナウンサーになり、バリバリのキャリアウーマンとして華やかな業界で活躍していた人でした。そこからの転落だったからこそ、その落差でおかしくなってしまったんだなと。
どんなに元々優しかった人でも、精神的・経済的に追い詰められると、思ってもいないことを言ってしまう。人間って脆いし、限界が来るとこうなってしまうんだなと、俯瞰して見て可哀想に思いましたね。だから今でも、経済的に困窮している人や辛い境遇にいる人に対して、絶対に何か事情があるはずだと考えるようになり、追い詰めないようにしています。
人に嫌われることやレールを外れることを恐れない
――その苦しかった体験や脳裏に刻まれたご両親の姿は、現在の坂井さんのお仕事にも大きく影響していそうですね。
坂井 ものすごく影響していると思いますね。倒産した時、父がリビングで深いため息をつきながら、めちゃくちゃでかいボトルの焼酎を飲んでいたんです。それを見た瞬間、「ああ、両親はもう無理だ。ここから自分がなんとかして救おう」と自分一人で燃えていた。その感覚は十数年経った今もずっと背負っています。
前職で子会社の代表を務めた際、傾いている事業を何とかするために周囲がやりたがらない泥臭い決断を自ら引き受けたことがあります。私は中学を退学になっているし、親が自己破産しても大丈夫だったという経験があるから、人に嫌われることやレールを外れることを恐れないんです。ある意味“保身”がないということですね。メンタルが強い自分だからこそできると言い聞かせていました。
昔から愛読している宮本輝さんの小説『流転の海』に出てくる「人は自尊心より大切なものを持たなきゃいけない」といった意味の一節が好きなのですが、様々な組織において経営が歪むのは「嫌われたくない」「今のポジションが不安定になる」という自尊心が原因です。しかし、自尊心や保身よりも、例えば「ユーザーへの価値提供」といった上位目的を優先することが大切。このような考え方には、今までの挫折経験が影響を与えているのではないかと思います。
〈「仕事はできるが性格が悪い社員」は外した方が業績が上がる? 組織を内側から壊す「腐ったリンゴ」を追放するための“究極のテクニック”〉へ続く









