NHKでドラマ化され大きな反響を呼んだ『宙わたる教室』。待望の続編となる『コズミック・ガール 宙わたる教室』が刊行されました。さまざまな背景を持つ生徒が集う夜間定時制高校の科学部を舞台に、今回は科学が大好きな女子高校生・飯星佐那が主人公。一度は消滅した科学部を復活させ、ロケットを飛ばすという大きな目標に向かう青春小説です。
文藝春秋PLUS「+BOOK TALK」では、著者の伊与原新さんと、かつて宇宙に憧れた“コズミック・ガール”であり、その夢を実現させた宇宙飛行士の山崎直子さんをお迎えしました。対談は偶然にも米国の月探査計画「アルテミス2」の打ち上げが成功した直後という絶好のタイミングで行われ、お二人は「女子と科学」、そして「宇宙への憧れ」をテーマに熱く語り合いました。
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アルテミス2打ち上げ成功の日に
村井(司会) 本当に偶然なんですが、この番組の収録日は、米国の「アルテミス2」の打ち上げが成功した直後というタイミングになりました。山崎さんは、今日ご覧になっていたそうですね。
山崎 東京にあるアメリカ大使館で関係者を集めたパブリックビューイングがありまして、そこで皆さんと一緒に見守っていました。
村井 伊与原さんはこのニュースをどうご覧になりましたか。
伊与原 僕もネットでライブ中継を見ていたんですけど、打ち上げって何回見ても、やっぱり感動しますよね。小説を書きながらそういった感じを伝えたいなと思っていたんです。
村井 まずこの作品について伊与原さんにお伺いしたいのですが、前作は藤竹叶先生という導く側を中心にストーリーが展開しましたが、今回は宇宙に憧れる女子高生――学ぶ側――を主人公に据えました。この違いを出したお考えを改めてお聞かせいただけますか。
伊与原 前作では顧問の藤竹という教師が、ある目論見を持って科学部を立ち上げ、生徒たちを巻き込んでいく形で活動を始めたんですけど、今回は藤竹もいないという設定になっていて、生徒だけの手で科学部を作ってほしいなと思ったんです。
伊与原 前作の科学部の学会発表を見てすごく感動した小学生が、定時制高校に入って自分でも科学部をやるんだという気持ちを持った子がいると。そうすると繋がっていく感じがしていいなと思ったんです。ただ、自分たちだけの手で顧問もなしに科学部を作っていくとなると、それなりにモチベーションというか、やる気と科学に対する情熱が必要になる。そういう生徒を主人公にしようと思ったときに、僕の中では最初から女子生徒しか考えつかなかったんですよね。言葉にするのは難しいんですけど、宇宙とかそういう学問にあえて自分の道を定めていく、そういう高いモチベーションを持っているのは、むしろ今は女子なんじゃないかなという気がしたんです。
山崎さんが共感した『「コズミック・ガール」』の情熱
村井 山崎さんご自身も科学大好き女子だったと思いますが、今回の作品をどういうふうにお読みになりましたか。
山崎 すごく重ね合わさせる部分と、若い情熱を感じて初心を思い出させてくれた部分と、感動の一言では言い表せない、すごく胸に迫るものがありました。
今、お子さんたちへの宇宙教育に携わっているんですが、世界的にも、特に日本では、高校生ぐらいになって理系の道や宇宙を目指そうと思う女の子は正直少ないんです。だから、そこであえてやろうとするのは、やっぱり自分の中に軸がある、あるいは純粋な好奇心かもしれないけど強い思いを持っている人なんじゃないかなという印象でした。
主人公の“推し”=カール・セーガンとは何者か
村井 作中で主人公の佐那が、天文学者のカール・セーガンを“推し”として語るのが印象的でした。お二人にとっても思い入れのある人物かと思います。山崎さん、カール・セーガンとはどういう人物なのか解説いただけますか。
山崎 カール・セーガンさんはアメリカの天文物理学者で、私が宇宙に興味を持ったきっかけの一つが、彼が関わった探査機「ボイジャー」です。ボイジャーはゴールデン・レコード(地球外知的生命体や未来の人類に向けた「地球からのメッセージ」)を搭載して探査に向かい、木星や土星のすごくきれいな写真を送ってきたんです。すごいなと思ったのですが、そのプロジェクトをリードしていたのがカール・セーガンです。
山崎 カール・セーガンがよく言っていたのは、「もともと私たちの体も地球もみんな星の欠片、宇宙の欠片でできているんだ」ということでした。その言葉に子どものときにすごく感動したんです。作中(『コズミック・ガール』)に彼の著書『コスモス』が出てきて、「(私と)一緒だ!」と思ってびっくりしました。私にとっても思い入れのある“推し”ですね。彼の一生を描いた絵本『星の子ども』の翻訳もしました。
村井 伊与原さんが今回、カール・セーガンを登場させたのはどういう意図がありますか。
伊与原 僕も山崎さんと全く一緒です。小学生の頃にテレビ番組の『コスモス』を父親と一緒に見て天体に興味を持ちました。大人になってから彼の著作を読むと、小説にも書いたんですが、「遠く離れたボイジャーから撮った地球は本当にちっぽけな青い点(ペイル・ブルー・ドット)なんだ」と。
その写真を撮ることは彼のアイデアだったそうですが、地球はちっぽけなんだと認識することの大事さを彼は訴えていました。人間中心主義からもっと俯瞰して、私たちはこんなちっぽけな星に住んでいるちっぽけな存在なんだから、争うのは馬鹿げているとか、そういうことを考える材料を提供してくれた科学者として、僕も大好きですね。
山崎 彼はすごくソフトなイメージで、一人一人に語りかけてくれるような雰囲気を持っていました。私たちも宇宙の一部なんだということを感じさせてくれたのがすごくうれしくて。2010年に国際宇宙ステーションに行ったとき、無重力で体が浮かんでいると、不思議と「懐かしい」感じがしたんです。「宇宙って故郷なのかもしれないな」なんて思いました。
廃棄タマネギでロケットを飛ばす? 高校生のユニークな発想
村井 今回の作品のテーマはロケットですが、作中では廃棄食材品を使ったロケットを飛ばすという着想がありました。このアイデアはどこから得たのでしょうか。
伊与原 これはもともと、兵庫県立洲本高校の科学技術部が長年取り組んできた研究を参考にしました。彼らはペットボトルを使ったハイブリッドロケットを開発していたのですが、既製の燃料は高価だったんです。もっと安いもので飛ばせないかと考えていたところ、名産のタマネギがたくさん廃棄されている淡路島の現状を見て、「これで飛ばせるんじゃないか」と思ったのが原点だったようです。廃棄食材から糖やでんぷんを抽出して燃料にできたら面白いんじゃないか、と。その話を聞いて、高校生らしいし、環境問題にもつながる面白い取り組みだなと思い、小説のモチーフにさせてもらいました。
山崎 本当に環境にもいいですし、地域に根ざしているところもあって、説得力を感じました。
宇宙船を作りたかった。理系女子・山崎直子の原点
村井 山崎さんご自身が「自分は理系に進もう」と確信されたのはいつ頃だったんですか。
山崎 一番長続きした関心事が小さいときからすごく好きだった宇宙でした。中学生のときに日本の初代宇宙飛行士の方々(旧ソ連の「ソユーズ」は当時TBS記者の秋山豊寛さん、米国の「スペースシャトル」は毛利衛さん)が選ばれたのを見て、「日本人も宇宙に行けるんだ」とすごくうれしい驚きでした。高校のときは理系だろうなと思いつつも文系と悩んでいたのですが、決めたのは高2の半ばぐらいだったと思います。
村井 理系の女性は医学部を目指す方が多い印象ですが、工学部に進もうと思われた理由は?
山崎 宇宙船を作りたかったんです。絵を描いたり、ものの断面図を見るのが好きだったので、設計できたらかっこいいなという憧れがありました。
科学部の「静かな熱量」とチームワーク
村井 伊与原さんは高校の科学部を取材されたとき、高校生の熱量をどのように感じましたか。
伊与原 洲本高校も何度か取材に伺ったんですけど、割と「静かな熱量」で黙々とやっています。顧問の先生は逐一指示は出さず、生徒たちに任せている。生徒たちは先輩がやってきたことを引き継いで、失敗したところ、うまくいったところを改良していく。先生の細かな指示がなくても、自分たちで次々と課題を見つけてやっていっているイメージでした。
村井 作品ではチームワークが描かれていますが、実際の科学部はどうでしたか。
伊与原 そうですね。得意分野がそれぞれあって、電子工作が得意な子はそれを頑張るし、プログラミングができる子はそれをやる。自分の得意なところを見つけて分担している。ロケットのようなプロジェクトをやるには、チームとしてのいろんな機能がないと難しいんだなと思いました。
山崎 高校生対象の「缶サット甲子園」(空き缶サイズの超小型模擬人工衛星の打ち上げを競う大会)というイベントのお手伝いをしていたんですが、4、5人のチームで模擬衛星を作って飛ばすんです。理系の知識を学ぶというよりは、むしろ「みんなで何かをやること」を学んでいる感じがします。
伊与原 作中のみちるミチルという登場人物は最初科学に興味がないんですが、チームで一つの問題に挑戦しているのが羨ましくなって仲間に入っていく。みんなで一つの目標に向かっているのは、楽しそうに見えますよね。
山崎 宇宙飛行士の仕事も一人ではできないので、そういう経験は直結すると思います。いろんな関心を持つ人が集まるからこそ、チームとしては強くなるのかなという気がします。
(後編につづく)









