総理大臣とバカ息子が入れ替わって、家庭も国会も大混乱? 作家・池井戸潤が政治の第一線を舞台に描いたコメディ『民王』が、この秋、驚きのミュージカル化。

 これまで映像化された作品は数あれど、なぜ舞台? なぜミュージカル? そして、なぜ『民王』なのか? 小説以上に奇想天外なその成り行きを、原作者と主演キャストが明かす。

写真左:別所哲也さん 中央:有澤樟太郎さん 右:池井戸潤さん
原作『民王』(文春文庫)
 

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ミュージカルは青春、そして夢

池井戸 僕はずっとミュージカルが好きだったんです。最初は『コーラスライン』(1975年アメリカ初演。日本では1979年より劇団四季が上演)。どのくらい好きかというと、自分の飼い犬にザック(『コーラスライン』の主要人物。演出家・振付家としてコーラスダンサーたちを選ぶ)という名前をつけていたくらいです。

別所・有澤 へぇーっ。

池井戸 そのあとは『キャッツ』(1981年イギリス初演。日本では1983年より劇団四季が上演)にハマって……。僕が学生の頃は新宿西口のテント劇場(キャッツ・シアター西新宿)で上演されていて、よくキャンセル待ちの列に並んで観ていました。

別所 (歌う)メ~モリ~、ですね。僕はデビューがミュージカル『ファンタスティックス』(1987年上演)だったんですが、その頃に観ることができた『レ・ミゼラブル』初演のゲネプロは、やっぱり衝撃的だったなぁ。でも、ミュージカルの初体験といえば、やっぱり映画の『ウエスト・サイド物語』(1960年日本公開)。劇団四季の舞台版で最初に観たときのトニー役は、大スターの山口祐一郎さんでした。たぶん有澤くんは、まだ生まれてない頃だよね?

有澤 僕は95年生まれで、いま30歳です。

別所 30歳……どうしますか、池井戸さん。95年なんて僕、もうバリバリのトレンディ俳優でしたよ!(笑)

池井戸 ハハハ、我々も歳をとるわけですね。有澤さんが昨年出演された『ジャージー・ボーイズ』を拝見しましたが、キラキラしていて「いいなぁ、若いって」と思いました。

有澤 ありがとうございます。僕も、『ウエスト・サイド物語』が大好きだった祖父の影響でDVDを見ていて、2020年に自分が出演することになったときは、すごくうれしかったです。ジョージ・チャキリスさんが演じたベルナルドを演じさせていただく予定だったんですが、残念ながらコロナ禍で公演中止になってしまって……。でも、そこからミュージカルをやりたい気持ちにさらに火がついて、それが今につながっている気がします。

有澤樟太郎さん

おかしさは、人間らしさから生まれる

池井戸 お二人が『民王』に参加してくださって、ありがたい限りです。しかし、まさかミュージカルになるとは……。この作品を発表したのはもう15、6年前になりますが、「日本には1億何千万人も人がいるのに、どうして漢字の読めない人が総理大臣になっているんだ?」という、当時の僕のささやかな疑問から出発したんです。

別所 「みぞうゆう(未曾有)」という、時の首相の有名な発言ですね。覚えてますよ。

池井戸 どうしてなんだろう? と考えていたある日、原宿の横断歩道を渡っているときに、突然、答えを発見したんです。「そうか、総理とバカ息子の中身が入れ替わっているんだ!」って。その真実を伝えなくてはという一心で書いたんですが、周囲は「池井戸、ついに壊れたか」と。

有澤 まさか原宿の路上で!

別所 今、明かされる驚愕の真実……。いや、だって、池井戸作品のイメージといえば、世の中の弱い人に寄り添う社会派じゃないですか。

有澤 そして、銀行員や会社員、働いている人が、とにかくカッコよく思える作品。小説を読んでも、ドラマを見ても。

別所 それなのに『民王』は、父と子の中身が入れ替わっちゃうコメディなんだから……。

有澤 (小声で)別所さんが演じるコメディって、ヤバいんですよ。

池井戸 そうなんですか?

別所 こらこら、何を言うんだ(笑)。

有澤 ミュージカル『9 to 5』(2024年上演)で演じられたパワハラ社長の役、とても最高でした。同じ年の『ジョジョの奇妙な冒険 ファントム・ブラッド』では親子役で共演させていただきましたが、紳士でありながら、すごくおもしろくて……。コメディって、僕も見るのは大好きなんですが、独特の「間」だったり、技術的に難しい面があって、ついついそれを考えてしまうんですよね。でも、別所さんは持ち前の遊び心があふれている感じで、パワフルでした。

別所 それはそれは、光栄です。やっぱり人間、笑い飛ばす力が大事じゃないですか。あと、追い詰められて、真剣にやればやるほどおかしくなる……笑わせようとするよりは、そういう人間くささからおもしろさが生まれるんじゃないかと思っていて。『民王』という作品が、まさにそうですよね。本来ならありえない物語や役柄に直面してはじめて弾ける想像力があるだろうし、それを自分の中にある感覚や技術を使って表現することが、とにかく楽しみです。

池井戸 そうですね。書く側としても、たんに冗談だけを積み重ねて読者がそれで笑ってくれればいいということではなく、やはりどこか考えさせられたり、心に刺さったり……そういうものになっていたらなぁと。今回のミュージカルも、観に来てくださる方が心の中に何かしらの「お土産」を持ち帰っていただける、そんな工夫が必要だろうなと思っています。

別所哲也さん

(→後編に続く)

池井戸潤 いけいど・じゅん
1963年岐阜県生まれ。98年、『果つる底なき』で江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。2010年『鉄の骨』で吉川英治文学新人賞、11年『下町ロケット』で直木賞、23年『ハヤブサ消防団』で柴田錬三郎賞を受賞。近作は『俺たちの箱根駅伝』(文藝春秋)、『ブティック』(ダイヤモンド社)、『ハヤブサ消防団 森へつづく道』(集英社)。

有澤樟太郎 ありさわ・しょうたろう
1995年兵庫県生まれ。2015年に舞台デビュー。『ハイキュー!!』『刀剣乱舞』シリーズをはじめ、『ジャージー・ボーイズ』『キングダム』『のだめカンタービレ』『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』『キンキーブーツ』『レイディ・ベス』など出演多数。27年春にはミュージカル『モーツァルト!』に主演。

別所哲也 べっしょ・てつや
1965年静岡県生まれ。87年、ミュージカル『ファンタスティックス』でデビュー。『レ・ミゼラブル』『ミス・サイゴン』『マイ・フェア・レディ』『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』など数々のミュージカルや舞台、映画、テレビドラマに出演。99年より日本発の国際短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア」を主宰。

池井戸潤×有澤樟太郎×別所哲也 歌って踊って、今こそ政治を考えるとき〉へ続く