池井戸潤×有澤樟太郎×別所哲也 極上のコメディに「お土産」をつけて〉から続く

 SNS選挙や国会空転など、日々、何かと政治が話題に上る昨今。そんな時代を狙い澄ましたように2026年秋に舞台化が実現した、池井戸潤のコメディの傑作『民王』。

 音楽を担当するのはクラシック音楽界の枠を超えて活躍する俊英・角野隼斗、そして脚本は、池井戸作品といえば気になる「あの」脚本家が……。早くも多方面で話題を呼ぶ新作ミュージカル、そこには、原作者と主演キャストが注ぐ熱い思いがあった。

写真左:別所哲也さん 中央:有澤樟太郎さん 右:池井戸潤さん
原作『民王』(文春文庫)

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注目のピアニスト「かてぃん」が、ミュージカル界に初参戦!

別所 ミュージカルといえば音楽ですが、かてぃんこと角野隼斗さんが、本当にいい曲を作ってくださってまして。何というか、すごくカラフルなんですよ。グルーヴィーだったり、アーバンだったり、ジャジーだったり、それぞれモチーフが素敵だし、リズムもすごくおしゃれで。

有澤 どれもすごくカッコいいです。ミュージカルは「初」なんですよね?

池井戸 ええ。以前、角野さんのコンサートに行って、舞台裏でご挨拶したときに「ミュージカルをやりたいと思ってるんですが、ご一緒にどうですか?」と声をかけたら、「いいっすよ」と、二つ返事で。

別所・有澤 すごい!

池井戸 だけど、その時点ではどの作品になるかは決まってなくて、まさか『民王』になるとは……。僕も驚きましたけど、彼もそうだったんじゃないでしょうか。

別所 これまた、今明かされる真実! 曲がたくさんあるので、原作をお読みになった方は、どこにどんな曲が入るか、想像するとより楽しめると思います。脚本は池井戸さん、じゃなくて……。

池井戸 えーと、なぜか僕と縁のあるツバキミチオ(2023年に公開された池井戸さん原作の映画『シャイロックの子供たち』脚本を担当。日本アカデミー賞優秀脚本賞受賞)が脚本で、「この辺に、こういう感じの曲を」というベースの部分を書いています。原作者と同じく、ツバキも作品を読んで、これは絶対に舞台にはできないと思ったようですが、どうにかこうにか、荒技で。

別所・有澤 フフフ(含み笑い)。

池井戸 何といっても問題は、翔と泰山の中身が入れ替わるシーンですね。彼らがいるそれぞれ別の場面が出てきて、そのときに入れ替わりのきっかけになる電波が……。

有澤 原作では、電波を妨害するためのヘルメットみたいなものをかぶりますよね? 僕、あれをかぶって演じるのかと思っていました。

別所 ドラマだと、幽体離脱するみたいに画面がウニョウニョウニョ~と揺れて……もしかして、世界初のテクノロジーが使われたり?

有澤 やっちゃいますか??

池井戸 うーん、小説や映像ではできますが、実際に舞台上でやるとなると、どうやって演出するのか……(と、傍にいるプロデューサーを見やる)あの表情では、まだ決まっていないようですね(笑)。とにかく、かなりの特別なアイデアでちゃんと視覚化されるでしょうし、脚本も後半部分は相当、原作と変えて……あ、ツバキが変えてくると思いますから。

別所 えっ、どうなるんだろう? 俺たち、元に戻れなくなったりして??

有澤 戻れるんでしょうか(笑)。僕も「このまま本当に総理大臣になっちゃうかも?」と思いながら読んでいました。

池井戸潤さん

「あの」脚本家も、きっと自信を持って書いたはず

池井戸 『民王』は、奇想天外な出来事を通して父と子がわかり合うまでの物語なんですが、今回、なぜこれを舞台で上演するのか? ということを考えると、やっぱりバカ息子の翔が政治に対して考え始め、発する本音の部分が大事になってくるんじゃないかなと思っています。

有澤 僕も、そこが本当に刺さりました。「やっぱ、そうだよな」って。大人になると本音と建前が自分の中に生まれて、いろいろ素直にものが言えなくなってしまう。国民として自分や周囲の人の生活がよくなるようにと思っているのに、一方で自分がいい思いをすることを考えたり……。翔はダメ男だけど、そういう気持ちをストレートに発することができる人間。演じさせてもらえるのがうれしいですし、たくさんのお客さまに見てもらえるエンタテインメントだから、その部分をちゃんと心に残せるようにしたいと思います。

別所 政治って、なかなか正面切って語りづらかったり、真剣に考えたりすることに気恥ずかしさを感じたりするんだけど、翔は入れ替わることによって父親が向き合っている政治というものが違って見えてくるだろうし、大人の泰山は息子と入れ替わることで若者の人生をもう一度体感し、息子という存在も再発見する。そんなふうに、お客さまにも、劇場を出るとそれまでと景色が変わって見えるような体験をしていただけるといいんじゃないかなと。

池井戸 そうですね。昨今、国会前で行われているデモに何万人もの人たちが参加していて、中には若い人たち、とくに女性がたくさんいて、一般の人たちの中で政治に対する参加意識が高まっているようです。

有澤 僕もニュースを見るようになりましたし、友だち同士でもよく話すようになりました。

池井戸 でも、その様子はテレビなどではあまり報じられていなかったりする。誰もが日本は自由な国だと思っているかもしれませんが、報道の自由度ランキング(「国境なき記者団」が年1回発表)ではアメリカとともにG7(先進7カ国)中で最低ランク。知らないうちに統制されはじめているのかもしれないとさえ感じます。僕の年代は相変わらず鈍感なままですが、敏感に感じ始めてる人たちもいて、ミュージカル『民王』を観てくれる方たちはきっとそうした方々。共感してくださるんじゃないでしょうか。

有澤 (頷きながら)すごくいいタイミングですよね。

別所 そうですよ。だって、総理大臣が出てくるミュージカルなんて、ほかにないでしょう?

池井戸 アルゼンチンの大統領夫人が主人公の『エビータ』(1978年イギリス初演。日本では1982年より劇団四季が上演)はありましたが、コメディは、まずないでしょうね(笑)。ツバキもきっと出来に自信を持っている……はずですから、お二人をはじめ多くの方々の力をお借りすれば、想像もしていなかったような作品に仕上がるんじゃないかと期待しています。どうぞよろしくお願いします。

 

★有澤樟太郎
ヘアメイク:窪田健吾(aiutare)
スタイリスト:山田安莉沙

★別所哲也
衣装:Yohji Yamamoto POUR HOMME
お問い合わせ先:ヨウジヤマモト プレスルーム 03-5463-1500
ヘアメイク:森川英展(NOV)
スタイリスト:Ryo Chiba(AVGVST)

池井戸潤 いけいど・じゅん
1963年岐阜県生まれ。98年、『果つる底なき』で江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。2010年『鉄の骨』で吉川英治文学新人賞、11年『下町ロケット』で直木賞、23年『ハヤブサ消防団』で柴田錬三郎賞を受賞。近作は『俺たちの箱根駅伝』(文藝春秋)、『ブティック』(ダイヤモンド社)、『ハヤブサ消防団 森へつづく道』(集英社)。

有澤樟太郎 ありさわ・しょうたろう
1995年兵庫県生まれ。2015年に舞台デビュー。『ハイキュー!!』『刀剣乱舞』シリーズをはじめ、『ジャージー・ボーイズ』『キングダム』『のだめカンタービレ』『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』『キンキーブーツ』『レイディ・ベス』など出演多数。27年春にはミュージカル『モーツァルト!』に主演。

別所哲也 べっしょ・てつや
1965年静岡県生まれ。87年、ミュージカル『ファンタスティックス』でデビュー。『レ・ミゼラブル』『ミス・サイゴン』『マイ・フェア・レディ』『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』など数々のミュージカルや舞台、映画、テレビドラマに出演。99年より日本発の国際短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア」を主宰。