――羽田さんの本は何から読めばいいでしょうか? ガイドしていただくことは可能でしょうか。
羽田 デビュー作の『黒冷水』か、SMを描いた『メタモルフォシス』という感じですね。黒い表紙の本のどちらかです(笑)。実際どちらかから入ってくれた人が多い印象で、あとは『「ワタクシハ」』という就活小説。これは20歳前後の大学生とか、新人の社会人の方などは感情移入しやすいかもしれないです。
ただなんとなくですが、旬な作品は何かと考えると、『メタモルフォシス』かもしれません。「メタモルフォシス」が前々回芥川賞の候補になったときにわりと善戦をしたこともあって、同じような構造で(主人公が自分の価値観を真面目につきつめて暴走する感じ)、介護をテーマに書いたのが『スクラップ・アンド・ビルド』です。この作品で芥川賞を受賞できたから、この方法論が得意だということはわかったのですが、自分らしさが出ているかどうかはよくわからない。
逆に全然売れていないし芥川賞をとってもまだ文庫化されていない『隠し事』の方が自分らしいかもしれないです。これは同棲するカップルの男の方が彼女の携帯をある日覗き見てしまって、「あれ、こいつ浮気してるんじゃないか」と疑念をもちながら、彼女の携帯の盗み見がやめられない心理を描いた小説です。一方で僕のデビュー作『黒冷水』は兄弟間のストーカー的行為を書いていて、弟が兄の机をあさり兄はそれに気づきながら罠を仕掛けたりするという話なんですね。つまり『隠し事』はデビュー作に近い構図なんです。だから、延々と何かをしつこくやっている感じを描いた作品には自分らしさが現れているのかもしれないし、その上で技巧的に昔よりもよくなっている作品が『隠し事』かもしれないですね。まぁこんなことを言いだすと、あの本もこの本もとなるので、どこからでもいいので読んでもらえたらと思います(笑)。
――羽田さんは日頃どんな読書をしているのでしょうか。月に何冊くらい本を読みますか。
羽田 数えてないですね。仕事で悩んでいる時は本をたくさん読んでいますが、自分の小説の直しで忙しい時はあまり本を読みません。
僕の場合はポメラっていうメモしかできない、電子辞書みたいなメモ打ち機で小説の本編を書いているんですが、デスクトップパソコンの一太郎にテキストを貼りつけて、それをプリントアウトして、紙の状態で本編を読みながら赤ペンでチェックしていくのが、自分の小説の執筆方法なんですね。そうすると本編を書くよりも直している時間の方がはるかに長くなって、直しの作業に没頭していると目が疲れてしまうので、あまり読書できない。まして最近は小説以外の仕事が増えているので、レギュラーでやっている書評の仕事用に読んではいても読書のペースは落ちています。
ただ本当の読書家って、呼吸するように本を読んでいるから自分が何冊読むのかはいちいち把握してないと思うんですよね。でも例えば僕が丸一週間、仕事がテレビ収録だけになってしまった時などに、全然小説モードではない頭で「これじゃまずい」と思って読書をしてみると、一瞬で小説の脳のモードに切り替わる。だから最近は読書の尊さというのを昔よりもより一層強く感じていますね。
(10月31日、神保町三省堂書店にて収録)
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