『スクラップ・アンド・ビルド』で第153回芥川賞を受賞した羽田圭介さん。又吉直樹さんとのダブル受賞となったことに加え、そのユニークな人物像が話題をよび、ひときわ注目を集めています。メディアで披露される姿は、実際どうなんでしょうか?
――本日は羽田圭介さんのトークショーとサイン会にお越しいただきありがとうございます。今日はご来場された皆さんから羽田さんへの質問票をお預かりしていますので、それを元に羽田さんに質問を投げかけながら、答えていただきながらのトークを楽しんでもらえたらと思います。
最近では羽田さんをテレビで見ない日はないのではないかと思うほどテレビでご活躍されていますが、今日はそのあたりの質問もたくさんお預かりしたので、芥川賞受賞作の『スクラップ・アンド・ビルド』をはじめ小説や執筆のことを語っていただく前に、テレビのことから伺ってみたいと思います。
羽田 とはいっても、テレビ出演はさほどご存知じゃない方が多いんじゃないですか。
働いている現役世代の方は、リアルタイムでテレビなんか観ないでしょう。中高生とかも部活とかで忙しいし。僕もテレビを持っていないこともあって、全然チェックしてないですし。
――ということなのですが、まずはこちらの質問から。「今テレビ・ラジオに多数出演されていますが、執筆活動にはプラスに働いていますか、それとも執筆に集中したいですか。今後作家業とタレント的な活動の両立をどう考えているのか聞かせてください」。
羽田 別に両立させようとか考えてないです(笑)。ただなんていうんでしょう、芥川賞をとる前までの生活と今現在の生活は、変わったといえば変わったし、小説の発想において少し違ってくるかもしれません。
それまでは生活サイクルは決まっていて、8時までに起きて朝食を食べて、午後1時くらいまで集中して小説の仕事をする。日中のダラダラしてしまう時間は映画を観たり、筋トレしたり、打ち合わせをしたりして、夕食後にまた小説の仕事に集中する。東京郊外のマンションに住んでいた5年半の間はずっとこのリズムでした。新しい小説のアイディア自体はネタ帳にたくさんストックをしているんですが、毎日代わり映えのしない生活なので、本当にこれでいいのか? というぼんやりした感覚は、なんとなくずっとありました。
外部刺激が限られた中で、自分の中の繊細なセンサーが捉えた題材で小説を書く。もちろん、それで十分やっていけるといえばやっていけます。でも、テレビに出始めてみると、今までとは違う刺激があるんですね。育ってきた環境とか仕事してきた場所が違う方々とお会いする機会が一気に増えて、わかり合えない人たちと関わっていくにはどうすればいいか、というようなことを考えるようになりました。日常生活の中で繊細なフィルターで探すネタと、また違った感じというか、俗っぽさとか戸惑いとか、何か新鮮なネタが得られる感覚はあります。
ただ難しいのは、テレビに対する幻想もなくなってきたところです。芥川賞をとる前は、自分の本が全然売れないのはテレビなどで宣伝されないからだと思っていた(笑)。でもいざ影響力のあるテレビ番組に出てみても、意外と売れなかったりする。もちろん、ある程度の販売促進には繋がるんですが爆発的に売れるところまではいかない。だからテレビの限界も知ったし、今テレビに出ることのいちばんのメリットは変な経験ができるところ、小説のネタになるところですね。だから本当にネタがなくなった時に、変な仕事をしたい(笑)。別に顔を覚えられたいとかは一切ないので、顔は忘れられたまま変な経験をしたいという感じです。