2013.01.24 書評

「老後生活」検証本の到達点

文: 小林 照幸 (ノンフィクション作家)

『老後の真実 不安なく暮らすための新しい常識』 (文藝春秋 編)

 高校卒業から四半世紀余。田舎(長野県長野市)で帰省者と在住者が集まって開かれる盆暮れのミニ同窓会(飲み会)において、最近の話題の中心は、同級生たちの健康状況です。

「○×が糖尿病になった。インシュリンを射っている」「胃潰瘍を何度かやり、薬を飲んでるよ。胃がんが恐い。会社の同期は既に胃がんになった」「△□の奥さん、40歳前に乳がんで亡くなった」……。

 今のところ私は幸いにもいたって健康ですが、「明日は我が身」の切実感を覚えます。10年前の飲み会では、結婚、マイホーム購入、転職などが話題でした。10年後は、健康状況はより深刻さを増して、親の介護、看取り、さらには老後の蓄えが話題となるに違いありません。「老後の準備は40代から」と言われ、最近は一際、その言葉が身に染みる中、本書は私にとって「40代・50代でどう準備し、60代以上に向かうか」を考えるバイブルとなるでしょう。

【財産が少ないほど相続でもめる】【寝たきりになると長いは迷信】【投資より現金】【誰も言わない老人ホーム入居の心得】【男も女も更年期後にほんとうの危機がやってくる】【EDは大病の予兆】など、各テーマは強烈な訴求力があります。僭越ながら私自身も執筆者の1人(【性と恋愛 60歳からのリアル】)ですが、取材で高齢者問題を扱う私ですら、本当に考えさせられました。

 本書のサブタイトルは「不安なく暮らすための新しい常識」。その名にふさわしく、健康、住まい、お金、介護など各ジャンルにおける旧来の常識が打破され、ショックの連続でした。そのショック療法のおかげで目から鱗の知見に数多く出会え、なまじわかった気でいた自らの態度を改めるに至りました。

 がんの専門医である坪野吉孝氏の【ほとんどのがんは遺伝しない】では、がんの家系とは生活習慣が代々引き継がれてきた結果で、これは遺伝とはほとんど別の話だそうです。塩分を多く摂取する家庭や地域で親子3代が胃がんになるケースなどがそれにあたります。両親がある臓器のがんになった場合、子供が同じ臓器のがんになる確率はならない場合に比べて約2倍であるというデータも、生活習慣から精査すべきと述べています。「神経質な人ほどがんになりやすい」「野菜や果物にはがんの予防効果がある」など社会通念を最新データを用いて迷信と帰結する記述は圧倒されます。

【糖尿病の最新常識・カロリー制限は大間違い】【その食べかた、間違っています】は、本書において最大級のインパクトを与えるものでしょう。

【糖尿病の…】では、合併症の予防を重視し、当初から担当した患者で失明、透析に至った人は1人もいないという糖尿病専門医の牧田善二氏が、失明、透析の合併症が減らない原因はカロリー制限の食事療法にある、と考察します。カロリー制限は脂肪分の多い洋食を避け、ご飯を主食とする和食が想起されますが、その方法で一向に血糖値が下がらない患者に牧田氏は、「血糖値を上げないためには、炭水化物の摂取を控えること。脂肪やたんぱく質はいくら摂取しても血糖値には関係ない」と告げ、「糖尿病になったら、ご飯よりステーキを食べなさい」と、カロリー制限ならぬカーボ(炭水化物)制限と適度な運動の奨励で患者の病状改善の効果を上げていると報告します。

【その食べかた…】では、筋肉量が減少する高齢者に対し、「年を取ったら野菜中心の粗食よりも、肉を食べる習慣が大切」と名古屋大学大学院の老年内科教授の葛谷雅文氏が警告しました。

 その他にも介護・医療ジャーナリストの長岡美代氏は【できるだけ長く自宅で暮らすための知恵】の中で、元気なうちの自宅のバリアフリー化は足腰の老化を早める懸念を指摘します。

 本書は、反響を呼んだ文藝春秋SPECIAL「これからの常識 老後の真実」(2011年春号)と「老後の核心 続・老後の真実」(2011年夏号)の再編集版ですが、これまで見てきたように、老後の生活の検証本では本書は現時点の到達点ではないか、という質量と深奥を感じさせます。60代以上で「もっと早く出してもらっていたら……」と愚痴をこぼす方もおられるでしょうが、各テーマには現在からの改善への処方箋、ヒントも提示されており、ご心配には及びません。

 読了後、身近な人に勧めたくなる方も多いでしょうが、貸与は控えては、と私は思います。その後に気づいたことや、他の媒体から得られた知識を書き込み、新聞や雑誌の記事を貼り付けるなどし、その時々に読み返して自分の血肉とし、生涯の伴侶としてはいかがでしょうか。私も、そのように活用するつもりでおります。

老後の真実

文藝春秋・編

定価:500円(税込) 発売日:2013年01月4日

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