- 2011.04.20
- 書評
ゴジラを作った男の孫弟子が伝える大不況時代の航海術
文:岩佐 陽一 (映像評論家・映像プロデューサー)
『円谷英二の言葉――ゴジラとウルトラマンを作った男の173の金言』 (右田昌万 著)
ある一定の世代にとって“円谷英二”という名前は、どんな宝石や金銀よりも価値と輝きを持つに違いない。
ゴジラ、ラドン、モスラ、キングギドラ、ウルトラマン、ウルトラセブン、バルタン星人、レッドキング、ピグモン……彼ら怪獣やヒーローの生みの親のひとり、それが円谷英二である。正確には、彼ら怪獣やヒーローたちが活躍する場面にリアリティを持たせ、且つ迫真の映像となるよう演出したのが円谷であり、その役職を特殊撮影監督、略して特撮監督と呼ぶ。今でいうCGや、SFXに該当するものだ。
円谷の存在なくしてゴジラもモスラもウルトラマンもセブンも、映像世界で縦横無尽に活躍することはできなかった。それだけに、それら怪獣・ヒーローの映画やテレビ番組が世を席巻した1960~70年代にかけての、円谷の子供たちからの人気は絶大だった。その熱狂ぶりは“怪獣ブーム”という名の社会現象として今なお語り継がれている。その人気は海をも越え、少年時代のジョージ・ルーカスやスティーブン・スピルバーグすらも魅了したという。
本書は、そんな“世界のツブラヤ”にして“特撮の神様”の異名を持つ故・円谷英二が生前に語った言葉を集めた、いわゆる金言集である。
となれば、特撮技術の専門用語や映画業界での内輪の言葉で埋め尽くされ、専門知識のない者にとっては無用の長物かと思いきや、そこに書いてある言葉は意外にも「ないものは作ればいい」「迷うよりやってみる」といった、普遍的なものが多い。
しかも、時代も業種も飛び越えて、100年に一度といわれる平成大不況の世に生きるサラリーマンたちにとって指針となるものばかりだ。
「特撮っていうのは、貧乏の中から生まれたんだ」。自身の伝家の宝刀たる特撮の源泉をこう語った円谷のひと言には目から鱗が落ちる思いだ。そもそも“特撮”という概念は、予算不足やテクノロジーの未熟さを補うために生まれた発想だった。大規模な都市破壊や爆発等々は実際に建造物を使って行ったほうが遥かに迫力があるのは当然のこと。だが、予算的・倫理的にもそんなことが許されるはずもない。そこで、それを“らしく”観せるために、つまりリアリティを持たせるために考案された技術が特撮だった。
「金に困ったら発明してたね」。そう思った円谷は次々に新しい技術を自ら開発し、予算不足を知恵で補い、先の言葉を実践していく。円谷には発明家の側面もあった。
この辺り、「不況で金がなくて……」「もう少し予算があれば……」と日々愚痴るサラリーマン諸氏に是非聞かせたい。
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