我が子を虐待することに疲れ、死を選ぶ母親。車のトランクで樹海へと運ばれる瀕死の男。「死にたい」と意気投合した薬物中毒の男女……。
鈴木光司さん待望の新刊は、富士の樹海で「死」と向き合う人々の姿を描いた、濃密な連作集だ。
「そもそものきっかけは、10年ほど前に、ワイドショーで『洞窟おじさん』のニュースを見たことでした。『洞窟おじさん』と呼ばれる中年男性は、両親による虐待に耐えかねて13歳で家出し、その後43年間も栃木県山中の洞窟などで暮らしていたんですね。
当時、サバイバルをテーマに小説を書こうと考えていた僕は、すぐさまこの男性に会いにいきました。彼は人と話をしない期間が長く、なかなか言葉が出てこなかったのですが、それでもポツリポツリと話す中で心に残ったのが、『自殺しようとして富士の樹海に行った』というエピソードでした。結局、彼は死にきれず、樹海を出るわけですが、その話を聞いて不思議に思ったのです。死を意識した人がわざわざ樹海に向かうのはなぜだろう、樹海には何があるのだろうか、と」
直後、実際に樹海を歩き、自殺者の遺留品なども多く目にした著者は、小説の構想が大きく変わったという。
「樹海を見たことで、単なるサバイバルではなく、“家族の因縁”を書こうと思いました。最近の少年少女が殺されたひどい事件を見ても、家族が背負ってきた因縁が子の世代に繋がっていたり、いじめられた子が大きくなるといじめる側に回るという連鎖があったり、身近なところに因縁の根が張り巡らされているなと感じます。
樹海では、溶岩大地に木の根っこがむき出しになって、ぐにゃぐにゃと複雑に絡み合っています。僕の目にはこれが、因縁が絡まり合う象徴に見えた。別個の現象のように見えて、実は背後で因縁の網の目が繋がっている、そういう関係性を描く舞台として、樹海はうってつけだと思ったわけです」
人生に行き詰まり、樹海に引き寄せられる「うまくいかない」者たちの多くは、ただ運命に翻弄されるばかりだが、中には強靱な意思によって因縁を利用し、新たな人生を切り開く人物もあらわれる。
「人生は選択の連続です。いざという局面で、多くの登場人物が楽なほう楽なほうに流されるのに対して、ひとりの男だけが未来を見据えた選択をし、決断する。それが結果として強運を引き寄せることになるんです。不運な人間と幸運な人間とをわかつものは何かということも、僕の小説の一貫したテーマですね」
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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