そんなことの連続で、台湾へ行くたびに、また会いたいと思う人がひとりまたひとりと増えた。
移動はできるだけ公共交通機関を利用した。だからこそバス停での出会いがあったのだともいえる。台湾のタクシーはそう高くないし、運ちゃん(日本統治時代の名残で「うんちゃん(運将)」という)と片言の台湾語と日本語で話すのも楽しいが、電車やバスに乗ればいろんな人間模様を観察できる。
お年寄りが乗って来るとサッと立ち上がり、当たり前のように優しく手を添えて席を譲る若者。これがひとりやふたりではない。見ているこちらが温かい気持ちになる。日本でも田舎に行くとよくある光景だが、乗り合わせた見知らぬ人同士がおしゃべりをしているのもほほえましい。バスの運転手の中にも、乗客相手に話しながら運転している人がいる。あるおじいさんに同行した際、道中五十分間ずっと運転手とおじいさんがしゃべりっぱなしだったのには驚かされた。
台湾の人たちは知らない人にも気軽に話しかけるし、初対面の人とも気さくに話をする。ただ、バス停でわたしに話しかけたおじいさんは違った。遠くから見てわたしが日本人だと分かり、それでわざわざバス停まで来てくれたのだった。そうまでして日本人と話がしたかった。しかし、次に探しに行ったときにはもう会うことができなかった。
映画「台湾人生」を観た四十歳代の台湾人女性が言ってくれた。
「台湾人はおしゃべりだけど、心の中の本当のことはなかなか言わない。でも、映画のおじいちゃん、おばあちゃんたちはきっと本当のことを話している」。
台湾のおじいちゃん、おばあちゃんたちは、何度も会いに行き同じことを問いかけるわたしに、少しずつ胸の内を語ってくれた。彼らの言葉は、彼ら自身と台湾が歩んできた道のりとともに、日本という国の姿を浮かび上がらせた。
そんな言葉をわたしに預けてくれた彼らが、今度はだれかの会いたいひとになるといい。
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