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今度は八咫烏vs.人喰い大猿の対決! 異世界ファンタジーは次のステージへ

今度は八咫烏vs.人喰い大猿の対決! 異世界ファンタジーは次のステージへ

「本の話」編集部

『黄金の烏』 (阿部智里 著)


ジャンル : #エンタメ・ミステリ

――日嗣の御子である若宮の正妻の座を争う姫君たちの物語『烏に単は似合わない』、同時期に若宮を巡る朝廷での壮絶な権力闘争を描いた『烏は主を選ばない』に続いて、本書『黄金の烏』は、ファン待望のシリーズ第3作目になります。

阿部 この物語の最初の場面と最後の場面は、長い間、私が書きたいと思っていたシーンでした。私は小説を書く時にまずいくつかの場面が思い浮かんで、その背景にはいったい何があるんだろうと考えていくうちにストーリーが出来上がることも多いんですが、逆に書いていてどうしてもそれをうまく入れられないこともあります。

 もともとの構想では、前作の『烏は主を選ばない』で郷長の次男坊・雪哉が中央へ仕官する以前に、地方で若宮と知り合うという設定で、雪哉が兄弟たちの梅の実を洗っているところへ若宮がやってくる場面を書きたかったんですが、それだとストーリーに無理が生じる。最後に出てくる〈不知火〉の場面もずっと書きたかったのに入れられなかった。今回の『黄金の烏』でずっと書きたかったことが、ようやく書けたという感じがします。

――舞台になっているのはこれまでと同じく八咫烏たちの世界である〈山内〉ですが、前2作までのお話は宮中の場面がほとんどでした。3作目では地方から物語がはじまり、様々な異空間で物語が展開されていきます。

阿部 狭い宮廷内でのお話をいかに面白く見せるかにこれまで苦心してきたので、登場人物たちが縦横無尽に飛び回ってくれた方が、作者としては断然にやりやすい。また謎解きのためにキャラクターの設定をあえて伏せながら書いていたんですが、今回はそれらの枷が外れたこともあって、登場人物たちが本当にいい動きをしてくれました。特に若宮の兄である長束などは、ようやく彼の持っている本来の人間らしさが出てきたと思っています。

 それから洞窟の場面が出てきますが、これは色んなファンタジー作品で書かれてきたものですよね。やはり奥に何があるのかまったく分からない暗闇というのは胸騒ぎがするものがあって、これもずっと書きたいと思っていたシーンなので、私自身もわくわくしながら書けました。

謎の〈人喰い大猿〉はどこから来たのか!?

――そして何といっても、本書の最大の読みどころは、若宮たちと八咫烏を喰らう大猿との対決。この謎の〈人喰い大猿〉という発想は、どこから得たのでしょうか。

阿部 日本の神話や古い説話の中には、人を喰う猿の話というのは結構あるんです。小説に出てくるような具体的な描写があるわけではありませんが、昔の話の中で実際にさもあったことのように書かれていると、映画なんかで観るよりも、ずっと想像力がかきたてられるんですよ。こうしたものからヒントを得て、自分なりにイマジネーションを膨らませていった感じです。

 そもそもこの大猿が何者であるかはシリーズ全体の根幹に関わる問題で、実は『黄金の烏』を読み終えていただいても最終決着はついていません。私の中では〈八咫烏〉の世界にはひとつの長い歴史があって、この構造をすべて書くには1冊ではとても枚数が足りないし、単行本として楽しめるものにもならない。歴史の一部を切り取って作品としてどう完結した物語にしていくかが、最も苦労したところでもあるんです。まだ正体は明かせないことを申し訳ないと思いつつ、シリーズ全体の謎が猿である以上、ここで登場させなければ前へは進めません。もちろん、猿との決着までの構想はできているので、今仕込んでいる伏線を回収する日が楽しみです(笑)。

――デビュー当時は「松本賞史上最年少の女子大生」としても話題を集めましたが、現在の執筆のスタイルは?

 

阿部 今年の4月から早稲田大学文学学術院に進学し、小説を書くための勉強をしながら書いています。大学院は思ったより時間の制約も多いし、課題も多いので執筆一本に専念できないのは悩みといえば悩みです。でもやっぱり自分1人では思いつかないようなアイディアをどんどん勉強の中で見つけられるのはすごく良かったところで、作家活動をより豊かにするためのものであることは間違いありません。

 私の癖でひとつ単行本を書きはじめると、それが書き終わる頃にはなぜかシリーズの続きが出来てしまう。いいんだか悪いんだか分かりませんが(笑)、まだまだ書きたい物語はいっぱいあります。刊行スピードはそれほど上げられませんが、今後も本作で生まれた謎に対する答えとなるような作品を、読者の皆さんにお届けしたいです。

文春文庫
黄金の烏
阿部智里

定価:814円(税込)発売日:2016年06月10日

単行本
黄金の烏
阿部智里

定価:1,650円(税込)発売日:2014年07月23日

電子書籍
黄金の烏【新カバー版】
阿部智里

発売日:2020年08月08日

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