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若宮の「謎」を解く一対の物語

若宮の「謎」を解く一対の物語

文:大矢 博子 (書評家)

『烏は主を選ばない』 (阿部智里 著)


ジャンル : #歴史・時代小説

『烏は主を選ばない 』(阿部智里 著)

 阿部智里のデビュー作『烏に単は似合わない』を読んだとき、その筆力と構成に驚き感心しながらも、ひとつだけ気になることがあった。それは「姫君たちのところにぜんぜん顔を出さなかった若宮は、いったいその間、何をしてたの?」である。

『烏に単は似合わない』は八咫烏の化身たちが暮らす土地で、そこを統べる若宮の妻の座を巡り4人の姫たちが鎬(しのぎ)を削る物語だ。実にエキサイティングだったが、姫たちのあれこれの間、肝心の若宮がまったく姿を現さないのである。その割に姫たちの内情に詳しかった。これが不思議だったのだ。

 だから『烏は主を選ばない』を読んだときには、思わず「こう来たか!」と叫んでしまった。なぜなら本書はまさに「その間、若宮は何をやっていたか」の話だったのだから。

 デビュー作の続編、ではない。スピンオフとも違う。『烏に単は似合わない』と『烏は主を選ばない』は、同じ時期の出来事を異なる視点で描いた一対の物語なのである。ジャンルはまったく異なるが、氷室冴子の『多恵子ガール』『なぎさボーイ』(ともに集英社eコバルト文庫)を想像していただければいい。どちらから読まれてもかまわないが、2冊そろってようやく全貌が見える仕掛けになっている。

単行本
八咫烏外伝 烏百花 蛍の章
阿部智里

定価:1,540円(税込)発売日:2018年05月10日

文春文庫
玉依姫
阿部智里

定価:792円(税込)発売日:2018年05月10日

単行本
弥栄の烏
阿部智里

定価:1,650円(税込)発売日:2017年07月28日

文春文庫
空棺の烏
阿部智里

定価:792円(税込)発売日:2017年06月08日

文春文庫
黄金の烏
阿部智里

定価:770円(税込)発売日:2016年06月10日

文春文庫
烏は主を選ばない
阿部智里

定価:814円(税込)発売日:2015年06月10日

文春文庫
烏に単は似合わない
阿部智里

定価:858円(税込)発売日:2014年06月10日

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