もしも突然、目の前に神が現れ、「普通の人にはない能力をひとつだけ授けよう」と言われたとしたら――。あなたはどんな力を望むだろうか。
恋人や、仕事相手が何を考えているのかが手にとるように分かる、他人の気持ちを読む力? 反対に、言葉に出さずとも自分の想いを相手に伝える以心伝心的な能力も捨てがたい。離れた場所から思い浮かべた状況や人の姿を見通せる透視能力も便利そうだし、物体を動かすテレポーテーション能力も使い道は多そうだ。
もちろん、現実には我々がそんな力を突然授かることなどあり得ないが、こうした「もしも」をあれこれと想像してみることは、思いのほか楽しい。本書『増山超能力師事務所』は、そうした意味で読書の愉悦を存分に味わうことができる、実に心躍る連作短編集である。
舞台となるのは「超能力者」の存在が一般的に認知され、その力の測定方法も確立された日本社会。異能者たちは、年に2度行われる1級と2級の超能力師試験を受験し、資格を得れば、個々の能力を生かした職に就くことができる。つまり、弁護士や公認会計士、あるいは気象予報士や看護師のように「超能力師」が職業として成立している世界、という設定だ。
所長の増山を含め、4人の超能力師と事務員ひとりが所属する「増山超能力師事務所」は、例えるならば探偵事務所のような業務を担っている。
第1話では、大学を卒業してから6年間、研修生という名のアルバイトに甘んじてきた28歳の高原篤志が、ようやく2級資格を取得し、プロの超能力師として挑む初仕事が描かれる。篤志が担当することになったのは、一般的な探偵業でもお馴染みの浮気調査。但し、46歳の妻が依頼してきた内容は一風変わっていた。長くセックスレス状態にある53歳の夫が、性欲をどのように処理しているのか分からないので、調べて欲しいというのだ。
続く第2話では、篤志の先輩でもある2級超能力師の中井健へと視点は移り、家出した中学3年の女の子の行方探しの顛末が描かれる。浮気調査も家出人捜索も、「超能力」があれば、容易いだろう、と思われるかもしれない。
だが、これが読者にとっては興味深く、登場人物たちにとっては悩ましくもあるのだが、いかに超能力師といえども「神」ではないのだ。なんでも手かざしひとつでお見通し、というわけにはいかない。能力にも得意、不得意があるし、集めた証拠を特別な力を持たない依頼者に提示する苦労もある。
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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