マイノリティの苦悩と葛藤
家族や友人たちにはない、特別な能力を持つ篤志や健がどんな子ども時代を過ごし、いかにして「超能力師」になったのか。作者は「もしも」の世界を覗き見る楽しさを描くと同時に、その世界で生きる者たちの内面にも深く切り込み、読者との距離を近づけていく。続く第3話、事務所で唯一、超能力を持たない経理担当の事務員・大谷津朋江が夫に言われた〈人の心ってのはな、読んだり覗いたりするもんじゃねえ……察するもんだ〉という言葉にも、つい頷いてしまいそうになる。
しかし、それでも、超能力師たちは持ってしまったのだ。人の心を読む力を、覗き見ることができる力を。ともすれば、人を死に追いやることも出来る特殊な力を――。
かつて「川口の魔女」と呼ばれ、発火能力を武器に喧嘩に明け暮れていた住吉悦子。事務所を立ち上げた当初、所長の増山の右腕として活躍し、独立していった河原崎晃。戸籍上は男であるものの外見は女として生きる事務所の新研修生・宇川明美。視点を移しながら語られる本書は、マイノリティの物語でもある。
どれだけ世の中にその存在が知られるようになっても、「普通」ではないと貼られたレッテル。容易には理解され難い本質。最終話で、警視庁に所属する榎本克己は語る。
〈悦子だって、中井や高原、あの宇川明美だって、ただ普通に仕事がしたいだけなのだ。(中略)彼らは大なり小なり自らの能力を恥じ、怖れ、隠したがる。日々を生きるだけで、彼らは大いに罰を受けている。そんな超能力者が、安心して働ける場所を作りたい。環境を整備したい。ただそのためだけに、増山は日々身を粉にし、背負う荷物を増やし続ける――〉
超能力師たちが集う探偵事務所というエンターテインメント性に富んだ舞台で展開する軽やかな物語を存分に楽しめる一方で、舌に残る微かな苦味をウマい、と感じずにはいられなくなる。「武士道」シリーズや姫川玲子シリーズのように、これからも、長く付き合えることを大いに期待したい。
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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