- 2009.06.20
- 書評
クリスティアーノ・ロナウド
ポルトガル航海者たちの末裔
文:竹澤 哲 (ノンフィクションライター)
『クリスティアーノ・ロナウド ポルトガルが生んだフェノメノ』 (竹澤哲 著)
ジャンル :
#ノンフィクション
ロナウド神話がすでに創られている。それをただ上書きしていくような気持ちを味わったのでした。
私はロナウドが生まれた一九八五年にポルトガルへ留学のため渡っています。そのまま現地で仕事をするようになり約六年間滞在しましたが、その頃、ポルトガルの人々はみな慎ましい生活を送っていました。当時の日本と比べると物も少なく、はるかに遅れたイメージがありました。それから二十年あまりが経ち、ポルトガルはEUメンバーとなり経済的にも急成長し、人々の生活も見違えるように豊かになりました。
マデイラ島の近年の大きな変貌ぶり、それはポルトガル本国も同じであり、この大きな時代の変化がロナウドのような選手を生みだしたのではないかと、私はふと思ったのです。そこでロナウドが生まれてからの時代背景を私の実体験を通じて描き、さらに近年のポルトガルサッカーの流れを辿(たど)ることで、何か見えてくるものがあるのではないか。その考えをもとに本書を書き始めたのでした。
私自身がポルトガルに対して特別な感情を抱いてきたことも、また本書への強い動機になっています。これまで何度か、他のヨーロッパ諸国を訪れる機会を得ましたが、ポルトガルほど親近感を覚える国は他にはありませんでした。それはポルトガルが辿ってきた歴史にも影響されているようです。ヨーロッパ大陸にあって西の最果てで大西洋に面し、背後にはスペインという大国があり、何度も侵略に脅かされてきたことから、ポルトガル人は海に出て行くしかなかったのです。また二十世紀半ばには独裁者により、日本の江戸時代の鎖国のように、閉鎖した社会を形成した時期がありました。ポルトガルには島国日本と類似した心情が存在しているようです。例えばポルトガルの大衆歌謡「ファド」は別れや郷愁を歌い込んだものが多く、日本の演歌にも通じるものがあります。
ロナウドが世界の舞台にデビューしたのは二〇〇四年ユーロ(欧州選手権)でした。決勝戦に負けて大泣きして流した涙は悔しさ、強い憤(いきどお)りを表していたのです。その悔しさがあったからこそ、それをバネにロナウドは世界の頂点まで辿り着くことができたのではないでしょうか。
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