今度、『秘境添乗員』を書いた金子貴一です。本には入り切らなかった、とっておきのエピソードを以下にご紹介します。
リビアを往く
「この旅には、家族に遺書を書き残してから参加しました」
目の前に座ったカジュアルジャケット姿のフランス人老紳士は、神妙な顔つきでそう語りかけてきた。
ここは、カダフィ大佐の国リビア。その最大の観光地である世界遺産「レプティス・マグナの遺跡」を、秘境添乗員の私はお客様を引率して、まる一日かけて徒歩で見学した。途中、あまりの広さと暑さで疲れきった私たちは、ヨーロッパ人の観光客に混じって、木陰で一休みしたのだった。そこは、古代港の埠頭跡で、すぐ後ろの崖の下には地中海の荒波が押し寄せ、心地良い風が吹き付けていた。
レプティス・マグナとは、世界最大級の古代ローマ都市遺跡で、紀元後二世紀にローマ皇帝に就いた同市出身のセプティミウス・セウェルスにより、帝都ローマに匹敵する巨大都市へと作り変えられた。目の前の海岸には、碁盤の目状に張り巡らされた道路に面して、保存状態の良い凱旋門、市場や神殿などが建ち並び、今にもローマ時代にタイムスリップしそうな錯覚に陥っていた。
「しかし」老紳士の声で、私は現実に引き戻された。「リビア人は皆親切で、私が間違っていたことに気が付きました」
その顔からは、満面の笑みがこぼれた。
一九九八年夏、私は連続してリビアを訪れた。リビアに日本人観光客が訪れるようになって一年が経ったばかりの頃で、まだまだ外国人観光客の受入れ態勢は整ってはいなかった。
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