- 2011.01.20
- 書評
今、文春文庫は、若者向けの小説が面白い!
文:「本の話」編集部
『ぼくらは海へ』 (那須正幹 著)、『カラフル』 (森絵都 著)、ほか
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
YAとも略されるヤングアダルト小説が、2000年代前半から、小説の一ジャンルとして認識され、多くの年齢層の読者へと裾野が広がってきました。
でも、「そもそも、YAってなに?」という方に、その言葉の説明から……といっても、じつは、YAには明確な定義はありません。児童文学でも、いわゆる大人が読む一般文芸でもない。しいて言うならヤングアダルトは「ジュブナイル」よりも上の年齢層の読物で、「ライトノベル」よりも、幅広い読者を想定しています。
文春文庫は、どちらかというと時代小説、歴史小説のイメージが強いと思いますが、YA小説も、じつは充実しています。一昨年から今年にかけて、良作が刊行され、映画化などでも注目を集めました。その一部を、今回はご紹介できればと思います。
まず、あの「ズッコケ三人組」シリーズの作者、児童文学の巨匠・那須正幹(なすまさもと)の隠れた傑作『ぼくらは海へ』。昨年夏、単行本刊行から三十年を経ての文庫化は、ファンをはじめ、話題になりました。
物語は、船作りを思い立った五人の少年達が、それぞれに複雑な家庭の事情を抱えつつ、大海原へと漕ぎ出すために仲間を増やすところから始まりますが、特筆すべきは、さわやかなタイトルからは、想像もつかない衝撃的な内容とラスト。死とは、現実とは、希望とは。少年たちのみならず、かつて少年だった大人にぜひ読んでいただきたい一冊です。
そして、昨年アニメでの映画化で話題になった森絵都の名作『カラフル』。生前、ある罪を背負ったため転生できなくなった「ぼく」の魂は、天使によって再挑戦のチャンスを与えられる。それは、自殺を図った少年・真(まこと)の体に、ホームステイをしながら、自分の罪を思い出すというもので……。同じ景色や物事が、ささいな変化で、まさに「カラフル」に変わる体験を見事に描き、それを読者に追体験させてくれる、また、良質な家族小説としても不朽の名作です。
そして、森絵都とともに、YA小説シーンを引っ張るあさのあつこの『ガールズ・ブルー』シリーズ。落ちこぼれ学校に通う理穂、美咲、二人の17歳の女子高生と、その幼馴染の如月、そして彼らを取り巻く日常が、淡々と描かれています。少女ならではの終わりなき日常への不安、閉塞感、危機的な状況といったものを見事に掬(すく)い上げる手腕は、著者ならでは。一見、どこにでもいる女子高生の日常、そのひとつひとつの出来事が、その時期にしか経験することが出来ない貴重なものに思えてくる、そんな出色の一冊です。
一昨年秋に刊行された続編の『ガールズ・ブルーII』では、その後の三人が、進路に悩む姿が描かれます。また、ある噂がきっかけで周囲から浮き上がってしまった少女たち二人の、友情でも恋でもない不思議な関係を描いた同著者の『ありふれた風景画』も必読です。