- 2011.01.20
- 書評
今、文春文庫は、若者向けの小説が面白い!
文:「本の話」編集部
『ぼくらは海へ』 (那須正幹 著)、『カラフル』 (森絵都 著)、ほか
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
YA小説には、スポーツ小説もはずせません。昨年、成海璃子、北乃きい主演で映画化された『武士道シックスティーン』。新免(宮本)武蔵を心の師と仰ぎ、幼い時分から父に剣道の英才教育を受け、勝利こそが大切と考える剛の香織。日本舞踊を習っていたものの、中学には部活がなく、日本的なものという理由だけで剣道を選び、剣道もまずは自分が楽しむことを大切と考える柔の早苗。まったく正反対の二人が、市民大会で対戦し、番狂わせで早苗が勝利するところから物語が始まります。剣道の思想を下敷きに、剣道をエンターテインメントとして仕上げた傑作。二月に発売予定の『武士道セブンティーン』では、中学の全国大会の決勝で、香織を破った新たなライバル・レナも登場し、面白さも、前作よりさらにアップします。
最後に、少女小説といえば、この一月から三月まで連続刊行される、桜庭一樹の『荒野(こうや)』。『私の男』(文春文庫)『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』(角川文庫)『少女には向かない職業』(創元推理文庫)などで、少女を主人公とした、ダークな展開を得意とする桜庭一樹のなかでは、珍しくストレートに「恋」を扱った異色の作品といえます。すこしだけ恋に臆病な少女「荒野」の中学入学から、高校一年までの恋と家族の軌跡を辿った物語で、友人の恋愛、父の再婚、クラスメイトからの予想外の告白など、少女小説の要素を満たしつつ、「大人になる」とは? を、必死に自問自答しつづける荒野の視線は、大人の恋愛へも注がれます。その姿は、家族についての主題を扱う他の作品を純化したかのようで、興味深いです。もちろん、ガール・ミーツ・ボーイ小説としてのツボも、しっかりと押さえられた、恋愛小説としても魅力的な一冊です。
今回ご紹介したもの以外にも、男勝りの女の子ミカと、それを見守るユウスケの双子の成長を描いた伊藤たかみの『ミカ!』『ミカ×ミカ!』のシリーズや、少女と出所したばかりのヤクザの祖父との交流を描いた筒井康隆『わたしのグランパ』など、文春文庫のYAは、傑作ぞろいです。
YA小説は、若年層の共感を呼ぶことを目的として書かれたものですが、一方で、他の年齢層にもファンが増えています。それは、読者に青春を追体験させるとともに、大人の視点では気付かなかった出来事に気付かせ、また、時に、大人が直面する問題に、忘れていた経験が大きな示唆を与えてくれるからではないでしょうか。
YAというジャンルに興味が出てきましたか? 書店へ行ったら、ぜひ、文春文庫の棚を探してください。そこには新たな小説との出会いがあるかもしれません。
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