- 2005.05.20
- 書評
〈特集〉デビュー二十周年 山田詠美の世界
人生を豊かにするアイテムと名フレーズ
滋養豊富[心篇]
構成:武田 健 (山田詠美研究家)
『風味絶佳』 (山田詠美 著)
ジャンル :
#小説
〈特集〉デビュー二十周年 山田詠美の世界
・〈インタビュー〉私が惹かれる男のたたずまい 山田詠美
・『風味絶佳』で味わう食欲をそそるフレーズ 滋養豊富[体篇]
・人生を豊かにするアイテムと名フレーズ 滋養豊富[心篇]
・山田詠美 著作年譜
体と心――Body and soul
スプーンは私をかわいがるのがとてもうまい。ただし、それは私の体を、であって、心では決して、ない。(「ベッドタイムアイズ」『ベッドタイムアイズ・指の戯れ・ジェシーの背骨』新潮文庫)
朝食――Breakfast
白いテーブルクロスの上の色彩。コーヒー。そこから立ちのぼる湯気。それの向こうに透けるぼやけた海。白い皿の上の燻製や銀の壺に盛り上がる砂糖など。(『熱帯安楽椅子』集英社文庫)
ジン・トニック――Gin and tonic
一杯のジン・トニックは、髪を適度に乱れさせ、余分な口紅を落とし、彼女は、とても美しく見えた。(『トラッシュ』文春文庫)
ワイン――Wine
彼は、自分の飲みかけのグラスを少しだけ移動させた。白ワインを通した陽ざしが、私の指に金色のラインを引いた。その一番光り輝く点が、私の薬指に落ちた。(『A2Z』講談社文庫)
香水――Perfume
外は雨だ。雨の季節は、もう終わる。けれど、この日の雨の匂いは、もう二度と嗅(か)ぐことはないのだ。母のつけていた香水と初めての男の人の混じった匂い。(「Keynote」『放課後の音符(キイノート)』新潮文庫)
マニキュア――Manicure
私は、赤いエナメルを左手の爪に塗ってくれるよう彼に頼んだ。彼は覚束ない手つきで、私の小さな爪に色をのせた。彼は、とても真剣な目つきをしていて、まるでプラモデルを組み立てる時の男の子のようだ、と私は思った。(「天国の右の手」『4U』幻冬舎文庫)
ピアス――Pierced earring
風は潮気を含み、私の髪をふくらませ、昼の強い太陽は、彼の耳朶(みみたぶ)の小さな金の輪を輝かせる。私は、ここに来て、初めて陽ざしが金色であることを知った。そして、金色が、あらゆる種類の色と決して争うことなく一枚の絵を創り上げることも。(「甘い砂。」『24・7』幻冬舎文庫)
煙草――Tobacco
「素敵!! 宝石箱に煙草の灰を落すなんて!! 大人と少女が微妙に混じり合ってるって感じね」(「Brush Up」『放課後の音符(キイノート)』新潮文庫)
ハーモニカ――Harmonica
いつまでも上手くならないハーモニカ。そして、いつまでも上手くならない可愛がられ方。けれども、それらは、確実に、彼の心をぶち壊す。ぶち壊されて、今度こそ、逃げられないように、わたくしを捕えて抱き締める。(「姫君」『姫君』文春文庫)
新聞――Newspaper
男が新聞を読むその表情が私は好きだ。私は、Jが、前髪をうるさそうにかき上げながら活字を追うその様に魅(ひ)かれた。ただながめるだけも良いものだ。(中略)何かに気を取られている男は、無防備でいたいけだ。それが、新聞であっても、女の体であっても。(「NEWSPAPER」『120%COOOL』幻冬舎文庫)
寂しさ――Loneliness
愛情を深めて行くってことは、心の中の寂しさを増やして行くということと同じだ。相手の存在が心の中を、どんどん浸食して行き、もし、それが突然になくなった時を予測して、怯(おび)える。(「メイク A ウィッシュ」『チューイングガム』幻冬舎文庫)
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