〈特集〉デビュー二十周年 山田詠美の世界
・〈インタビュー〉私が惹かれる男のたたずまい 山田詠美
・『風味絶佳』で味わう食欲をそそるフレーズ 滋養豊富[体篇]
・人生を豊かにするアイテムと名フレーズ 滋養豊富[心篇]
・山田詠美 著作年譜
料理――Cooking
私は、男に食べさせる。それしか出来ない。私の作るおいしい料理は、彼の血や肉になり、私に戻って来る。くり返していると、どんどん腕は上がる。(「夕餉」)
台所――Kitchen
確かに私は、台所で、自分ではどうすることも出来ない料理欲に束縛されている。レードルやスクレイパーや菜箸、まな板やトングに至るまで、台所用具は、いつだって、私を快楽に導いてくれる。(「夕餉」)
薬缶――Kettle
お茶を飲みたい時には、お茶、とひと言、口にするだけだった人が、自ら薬缶を火にかけている。もしかしたら、本当は、こういうことをしたかったのだろうか。いや、まさか。父は変わってしまったのだ。(「春眠」)
水――Water
私は、水には神経質になってしまいます。自分の手をかけた水を彼女に飲ませたいと考えます。完璧な作業を終えて蛇口から流れる水も、ブリタの浄水器を通します。(「アトリエ」)
塩――Salt
フランス料理には、ゲランドの塩を使いたいし、イタリア料理には、シチリアのもの、ペレグリーノ鉱山で採掘されたミニエラ・フィノなんか最高だ。和食なら、伯方の塩や長者の塩でも良いけど、私は沖縄のが好きだ。(「夕餉」)
野菜――Vegetable
オリーブ油をたっぷりとル・クルーゼの大鍋にたらして、芽を取って刻んだにんにくを炒める。良い香りがあたりに漂い始めたら、小さく切ったトマト以外の野菜を全部加える。ひたすら炒める。(「夕餉」)
煮物――Food boiled and seasoned
弥生の煮物は絶品だぞお、と父が言う。章造は、丁寧に隠し包丁を入れた野菜を口に入れる。そうだろうか、と彼は思う。母の濃い味つけの方が余程旨かった。(「春眠」)
高野豆腐――Koyadofu
乃里子は、小鉢に入った高野豆腐の含め煮を箸で押した。ほとびた高野豆腐から、出汁が溢れて来る。彼女は、それを口に入れて目を細める。(「風味絶佳」)
キャラメル――Caramel
いくらなんでも、祖母と助手席の男たちとの間に肉体関係が生じていることはあるまい、と志郎は自分に言い聞かせている。ただ、必需品なのだろうとは思っている。あのミルクキャラメルのように。(「風味絶佳」)
プリン――Pudding
プリンをすくったスプーンを口許に持って行った時には、見る間に顔じゅうの筋肉が緩み、だらしない表情になるのです。私は、それが見たくてたまらなかった。だらしない幸せは、憂鬱を流してしまう作用があると思うのです。(「アトリエ」)
メロン――Melon
夕張メロンは熟れていて、スプーンですくって口許に持って行ってやると、するりと唇の中に滑り込む。同じスプーンで彼も食べる。ふと思いついて、そのまま彼女に口づけると、当り前のように彼の口の中のメロンを啜り込むから、舌の上には甘味だけが残って頼りない。(「間食」)
麦茶――Barley water
ある夏の夕暮れ、二人は、冷たい麦茶を飲みながら、蝉太郎が、いつものように蝉をおもちゃにする様子を見ていた。そして、海で遊んで帰って来た私は、彼らを見ていた。(「海の庭」)
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