――では本についてのお話を訊いていきたいと思います。羽田さんの作品は実体験を元にしていることもありますか? 『スクラップ・アンド・ビルド』の主人公の筋トレシーン、デビュー作『黒冷水』の兄弟の机あさり、『不思議の国のペニス』の高校生同士の会話など、とてもリアルに感じられるそうなのですが。
羽田 そうですね、実体験を元にしない作家はあんまりいないと思います。実際に目にした耳にしたものからインスピレーションを得たあとに、書物とか資料を調べて書いています。自分の経験したことや感じ方だけがオーソドックスなものだと思い込むよりは、他の方の経験や感じ方をまとまった書物の形などで知っておいた方が、自分の特異性に気づくところもあると思うので、身近なテーマほど本を読んだりして取材しているところはあって、『スクラップ・アンド・ビルド』でも介護関連の本は、例えば介護現場のルポなど、わりと本を読みましたね。
ただ『メタモルフォシス』はSMの小説なので、実体験なのかどうかは、どちらにしても言えないですよね(笑)。本当にSMにはまっていたら言えないですし、取材して書きましたというのもつまんないので言えないです。だからこれについては言えません。
――そのあたりは内緒ということで。では次の質問です。『スクラップ・アンド・ビルド』を読んでいると、羽田さんっぽさが主人公に現れている感じがあるのですが、その辺の主人公と羽田さんとの重なり具合についてはご自身でどういう風に考えられていますか?
羽田 おそらく僕っぽさを一般の方が認知されるのは、何かのインタビューの記事とかテレビとかラジオを通じてのものですよね。だから自分の本質的なところは全然出てないと思うんです。例えば『スクラップ・アンド・ビルド』についての取材が続くと、だんだんと同じ質問に答えるのが面倒くさくなって、自分自身を主人公の健斗と重ねて演出する、みたいなところはありますね。
主人公の年齢(28歳)や性別(男性)が僕自身と似ているので、「羽田さんは主人公と近いんでしょうか」って聞かれることが多いんですね。それで「いや、小説を成立させるためにこういう設定にする必要がありました」と答えてもボツにされたりしてしまうので、それを回避するためにあえて自分と重ねてしまう。だから主人公に自分を投影させているわけじゃなくて、自分を主人公に近づけているっていう感じです。そのほうが嘘もないし、説明の必要もないだろう、という感じがする。でもその結果、作者をすごく反映させている小説、といった感じになってしまっていますね。
――次に、作品のタイトル決めについて。何かこだわりはありますか? 例えば『スクラップ・アンド・ビルド』というタイトルはどのように決まったのでしょうか。
羽田 タイトルはわりと最後につけます。『スクラップ・アンド・ビルド』でいうと、まず「ビルド」という言葉を最初に思いつきました。そこから派生して最終的に『スクラップ・アンド・ビルド』に落ち着いたんですが、他にも候補には漢字二文字のタイトルとか、平仮名と漢字まじりのものもありました。ただ、『スクラップ・アンド・ビルド』は介護を扱った話で、それは日本近代文学から連綿と受け継がれている“病気文学”のジャンルにあたる。その系譜には素晴らしい作品がたくさんあるので、それらとは違ったバカっぽい感じを出そうという発想があったんですね。漢字二文字だと湿った感じになるけれど、カタカナの長いものだとペラペラなバカっぽさが出るかなと思ってこのタイトルに決めました。
(10月31日、神保町三省堂書店にて収録)