浅田真央の本を書いた。『浅田真央、20歳への階段』という本だ。小著『浅田真央、15歳』から数えて五冊目、これがシリーズ最後になる。
はじめは一冊だけのつもりだった。長く続けられたのは、浅田の魅力と周囲の熱意に尽きる。貴重な五年により添い、さまざまなシーンを綴ってこられたことに、心から感謝している。
十五歳の頃の彼女は、まるで花のようだった。愛らしく、明るく、無垢で、スケートがとても上手だった。
リンクにいるときは、楽しそうだった。何かができないとか難しいとか。そんなふうには、まったく考えていなかった。いつも「できる」と言っていた。
まだダイエットは始めていなかった。ステーキや焼き肉やお寿司、お菓子などを、美味しそうに、たくさん食べた。
びっくりするくらい、よく笑った。ときどきは、目に涙があふれるまで笑った。何がおかしいの、と訊くとますます笑って、話がうまくできない日もあった。
冷房の利いた店で、かき氷を食べたら寒くなった。ケーキを食べたら、額にニキビができた。そんな些細なことを、彼女は笑っていた。笑顔が、ほんとうにかわいらしかった。よく覚えている。
浅田はその後、すぐに注目を集め、国民的なスターに成長していった。スケートに対する姿勢は、より真剣さを増し、アスリートらしい苦悩にも直面するようになった。そして、いつからか、前のようには笑わなくなった。
もちろん、それは大人になったからかもしれないし、競技者としての自覚かもしれなかった。ただ、ときおり、彼女はため息もついた。「あーあ」と言うこともあった。
勝負の世界に生きる厳しさを、彼女のまなざしに感じる。疲れているようにも悲しげにも見えた。そんなときは、いつも言った。
真央、頑張れ。
頑張っているのは、十分に知っていたけれど、ほかに掛ける言葉が見つからなかった。バンクーバーオリンピックのシーズンには、とくに。
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