──この作品には女優、OL、キャバクラ嬢、そして資産家の娘と、年齢も職業も異なる四人の女性が登場します。彼女たちはさまざまな理由と目的で同じ美容整形外科医に通い、それぞれ美への欲望を次第にエスカレートさせていき、しまいには禁忌の領域にまで近づきます。美しくも怖ろしいこの物語の構想はどこからきたものなのでしょうか。
唯川 最初にあったのは、女の人の裏側を書いてみたいということでした。裏側もいろいろあると思いますが、今回は恋愛が絡まないものを書きたかった。そこから女性が最近、もっとも意欲的な「美への欲望」について考え始めて、美容整形のことを思いつきました。以前から美容整形についてはとても興味があって、いちど短篇を書いたことがありましたが、長いもので書いてみたいという思いもずっとありました。
──四人の女性が美容整形を受けるようになった理由やきっかけはそれぞれですが、そのどれかは読者にも何かしら思い当たるものがあるのではないでしょうか。これは意図されたことだったのでしょうか。
唯川 はい。一人の女性だけのことなら「どうしてここまで」と思われてしまうかもしれませんが、異なる四人の女性のことなら「この人のこれならわかる」という引っかかりを読む方に持ってもらえるかもしれない……そう思って今回は女優、普通のOL、若いキャバクラ嬢、そして少し壊れかかった資産家の娘を物語に登場させてみました。
──「美のカリスマ」と呼ばれる女優の條子(じょうこ・47)は、加齢、特にシミへの恐怖から、整形というよりアンチエイジングの施術をエスカレートさせていきます。お堅い出版社に勤めるOLの多岐江(たきえ・36)は、レーシック手術で視力が劇的に回復したことがきっかけで「他のところ」も直るかもしれないと思うようになって、美容整形を繰り返すようになります。このふたりが美容整形を受けるきっかけは特別なことではなく、十分に理解できることですね。
唯川 美容整形にはまる入り口はいろいろでしょうけれど、例えば加齢に対する恐怖は、女性だけでなく男性にもある普遍的なものですからね。人間はいったいどこで老いを受け入れるべきなのかということは、今回この作品を書きながらずっと考えていました。