東日本大震災と共に起きた福島第一原発事故。この事故で被災したのは、人間ばかりではない。犬や猫のペットたちもまた“被災”したのだ。避難するとき、やむを得ず置き去りにされたペットたちは、日々衰弱し、飼い主に再び会うことなく死んでいく。その一方で“ペットレスキュー”によって救われ、飼い主の元へ戻っていく幸運な命もまた少数ながら存在していた。
森絵都さんがこのたび上梓した『おいで、一緒に行こう』は、福島原発二十キロ圏内で行われているペットレスキューの現場を、約半年間にわたり取材した“命の記録”である。
「以前犬の保護活動を扱ったノンフィクション作品を書きました。その後も、この問題に関心を持ち続けていたところに起きたのが今回の大震災です。ほとんど報道されませんでしたが、ペットの救出問題は震災直後から耳に入っていて、私も何かしたかった。そこで、犬や猫の被災地での救出活動について書こうと思ったんです」
とはいえ、報道がされない以上、個々のボランティアが運営するブログに情報を頼るしかない。多くのブログを読む中で出会ったのが、本書で森さんが同行取材したペット救出ボランティアの中山ありこさんだ。
「ブログを読んで『この人だ』とピンと来ました。中山さんは、視点がすごくニュートラル。声高に正義を叫ぶわけでもなく、義憤を訴えるわけでもない。この人なら大丈夫と思える何かがありました。ただ、懸念材料もあったんです。当時原発二十キロ圏内は、立ち入り規制が敷かれていた。私が彼女たちの活動を公にすることで、かえって活動の邪魔をしてしまうのではないか。その心配がぬぐいきれず、一時は発表を断念しようかとも思いました」
しかし、ペットレスキューの取材を進める中で、この活動を絶対に伝えていかなければならない、という思いが森さんの中で膨らんでいった。
「中山さんたちがしていることは、実は人助けでもあるんです。私も小さい頃、犬がいなくなった経験がありますが、そのとき、一緒に犬の名前を呼んで探してくれる人がいたら、どれだけ心強かったか。大きな災害が起きたとき、ペットを救う方法を誰も知りませんでした。そんな中で、ボランティアの人たちの存在は唯一の救いだったと思うんです。それは、家を失ったり、故郷をなくした方々にとって、人間への信頼を回復する出来事だったのではないでしょうか。今回のことは、私たちが知っておくべき大事なこと、そして目を逸らさずに見ておくべきことだと。その思いがあったから、この本を書くことができたのかもしれません」
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