- 2012.03.29
- インタビュー・対談
還暦ヒーローと子、孫が織りなす痛快シリーズ
「本の話」編集部
『三匹のおっさん ふたたび』 (有川浩 著)
出典 : #本の話
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
――還暦世代の活躍を描く『三匹のおっさん』、待望の第2弾ですね。
「次があるならば貴子の話から始めようということだけは決めていました。キヨの息子夫婦である健児と貴子は言うなれば過渡期の世代。最終的には素敵なジジババになれるかもしれない、そこへ向かう地道な変化を描こうと」
――前作刊行時に、児玉清さんがラジオで「世代間のことが見事に描かれている」と紹介なさっていました。
「とても嬉しかったです。私は、年代によって人間に違いがあるとは思っていなくて、高校生でも還暦でもどう振る舞うかは人それぞれ。たとえばノリは知人がモデルなんですけれど『あの人が年をとったらこんな感じかな』というふうに、あくまでも“このキャラクターはどんな人間か”が大事で、年代で分ける訳ではないのが、児玉さんにおっしゃっていただいたような強みに結びついているのかもしれません」
――ゴミの不法投棄に立ち向かう第4話では、三匹と同世代ながらまったく別タイプの男性が登場しています。
「自分と同年代の振る舞いに直面することで三匹にも自分に対する疑いをもってみてほしいという、私からのなげかけですね。自分を疑わなくなった人間は成長が止まってしまいますから」
――今作では、三匹の暮らす町の様子もますます細やかに描かれています。
「前作で人物を掘り下げたので、『ふたたび』では町も掘り下げていこうと思い、商店街を出しました。商店街の書店が万引きに苦しむ第2話は、書店回りをしている際に社会見学で来た中学生と偶々行き会わせて『せっかくなので何かお話を』と言われ『この本1冊売れると著者や本屋さんには何円入ってくるでしょう?』と話したことが印象に残っていて生まれました。店長さんも一緒に説明を補足してくださって。あとがきでも触れましたが、出版界のお金の流れって外からは見えにくいんですよね。でも本の売れにくいご時世だからこそ知ってもらうことが大事だと思うんです。私の会った中学生達も真面目に聞いてくれていましたよ」
――地元の祭りのために奮闘する第5話にも、商店街や町のつながりが描かれています。
「長年住んでるとか子供がいるとか何かとっかかりがないと地縁って入っていきにくいもの。その点、地元で居酒屋を営むシゲの存在は助けになりました。息子の康生を主人公にした話はいつか、と思っていたのですが、いざやってみると控えめな性格のせいでなっかなか動かない(笑)。その分、町の形がしっかり立った話になりました」
――第2弾ならではの展開といえば、ノリのお見合いには驚きました。
「ノリも実は主人公になりにくい人で、頭が回るからちょっとやそっとじゃ事件に巻き込まれない。でも年をとった父親であるノリと一人娘の早苗の間ではその年齢差が心の片隅にいつもかかっている。それに正面から向き合うきっかけになる“事件”がお見合いです。ただ、お見合い相手の満佐子が思いのほかチャーミングになってしまって、どう決着させるかは少々悩みました。あと、この話では『名乗るほどの者じゃございません』という時代劇のお約束をぜひやりたかったんです(笑)」
――時代劇を現代でやったら、というのは前作から引き続きのテーマですね。
「第6話の偽三匹も、時代劇の定番のひとつといえば偽○○かな、と考えて登場させました」
――困ったおっさん達ではありますが、何だか憎みきれない偽三匹。
「時代劇の要素は取り込みつつも現代の小説なので、単純な勧善懲悪の図式には落とし込まないように意識しています。第6話は、吹っきれて自由に書けたなと感じる三匹らしい1篇です。前作から今作までの間に映像化がいくつかあったり、私自身を取り巻く環境が大きく変化しました。読者が増えた反面、手厳しい意見も受けたりして自分でも気づかない内に萎縮していた。そのことに、『ふたたび』を書きながら改めて気づくようなところがありました。それ以外にも大きかったのが、演劇との出会いです」
――昨年は演劇集団キャラメルボックスとのクロスオーバーで『ヒア・カムズ・ザ・サン』を上梓されました。
「『三匹のおっさん ふたたび』を連載する間に『ヒア~』と現在週刊誌連載中の『旅猫リポート』を書き上げたことで自分の中で“筆が増えた”というか、新しい技法をひとつ得たように思います。結果的に『ふたたび』は各話ごとに新しい“筆”の使い方に試行錯誤したり、萎縮や解放を意識したり、作家としての今を色濃く反映した1作になったと思います。子供の頃から読んできたものが糧になっていたり演劇にふれて“筆”を得たり、アンテナをクローズさえしなければ新しいものが一生増えてゆくんですね。オープンなままどこまで行けるか、楽しみです」