2014.04.24 インタビューほか

患者ではなく医者のためのがん治療

「本の話」編集部

『これでもがん治療を続けますか』 (近藤誠 著)

患者ではなく医者のためのがん治療

――近藤さんは、3月末に慶應義塾大学医学部の定年を迎えました。この約40年を振りかえってどうですか?

近藤 医者になった当初は、まさか自分がこんな本を書くようになるとは思いませんでした。

 僕は使命感に燃えて医者を志したのではありません。学生時代は、ひたすらボート部の活動に熱中していました。ただ、目的意識なしに勉強は好きで、理論的に考えるのは得意でしたので、「医者」というより「科学者」の資質はあったのかもしれません。また高邁な理想がない分だけ、偏見なしにいろいろ吸収できたのかもしれません。

 医者になってから自分なりに知識を得るにしたがって、日本のがん治療に疑問を抱くようになりました。そして、まずは自分が属する放射線科の治療を変えていきました。さらには大学全体、日本全体のがん治療も問題にしていきたかったのですが、大きな壁にぶつかりました。医者たちの激しい抵抗です。そこで、何を言ってもムダだと医者の説得は諦め、世の中に直接伝えようと著作を出すようになったわけです。

最後は患者本人が選ぶ

――「がんは知らせた方が治る」といち早く主張したのも、患者との情報共有を重視してのことですね。

近藤 白血病と同じ「血液がん」に分類される悪性リンパ腫は抗がん剤で治る可能性があります。しかし、病名を告げない抗がん剤治療には無理がある。強い副作用で抗‘がん’剤であることを気づかれないよう、少量投与を強いられて結局治せないからです。そこで思い切って病名を知らせることにしました。真実を告げると、患者は治療に積極的になり、CHOP療法(当時欧米で標準治療だった四種類の抗がん剤を組み合わせた療法)を実施でき、以前よりも治療効果が上がりました。

 ただ当初は、「告知」という言葉を避けていました。余命の‘宣告’のような響きがありますから、もっと普通のこととして「知らせる」とか「教える」で十分でないかと。告知がこれだけ広まった今は、それほどこだわっていませんが。

 しかし、今の告知は患者というより、特定の治療法への誘導や医者の責任逃れのためになっています。合併症や後遺症について一通り説明はしても、ほとんど考える時間や余裕を与えず、何かあったときに「あなたが選んだんです。自己責任です」と言うためのものにしかなっていないのが現状です。

 患者本人が最後は選ぶ。これが僕の方針です。「これはやめておきなさい」とは言っても、「こっちをやりなさい」と誘導はしません。「最後に決めるのはあなたですよ」と。自分で理解しようという患者ほど、僕の本も読んでくれます。

――本書では、転移や浸潤のしくみに関する説明が加わり、「がんとがんもどき理論」がさらに一歩進んだ印象です。

近藤 転移や浸潤のあり方は、遺伝子の段階で決まっていますが、基本的には、遺伝子とそこからできるタンパク、あるいはできなくなるタンパク、その組み合わせの問題に還元されます。その点をこれまで以上に詳しく説明しました。

 現在、分子標的薬、免疫療法、放射線治療といった“最新治療”がもてはやされ、メディアにはさまざまな情報が溢れ、ワラにもすがる思いの患者が影響を受けてしまうのも分からないではありません。しかし、そういう不確かな断片的な情報に漠然と期待をかけるより、がんの基本的なしくみをきちんと理解することの方がはるかに大事です。そこが分かれば、がんに関して自分自身が判断を迫られたときに役立つはずだからです。そのことを伝えるために本書を執筆しました。

これでもがん治療を続けますか
近藤誠・著

定価:750円+税 発売日:2014年04月21日

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