といったわけで、日本の歴史は、実に曖昧模糊(あいまいもこ)としています。
徳川時代は「葵(あおい)の帳(とばり)」、明治以降は「菊のカーテン」という絶対触れられない、中を覗けないタブー(禁忌)があった。
それに分け入るようにして、本当と思われる時代の真実を探る作品を書くのは大変な作業でした。
私は、嘘八百が書けません。
某大作家は、「小説家はウソを紡ぐ人間だ」というような事を言っているようですが、私は鈍感なのか、そんな気持ちは毛頭(もうとう)持ったことがない。ひたすら、
「ここは、こうだったはずだ」
「あなたは、ここで、こう言ったに違いない」
小説の主人公との間では、毎朝、毎晩、そんな対話の連続でした。
それも終わりました。
今は落ち着きを取り戻し、小康状態にあります。
最後に、作家デビューしてからの、自分の来(こ)し方を考えると、これも感慨無量のものがあります。
日本経済新聞社の『信長の棺』の単行本の初版は、わずか四千部でした。それが、この五年足らずで、両社の単行本、文庫の延べ累計で百五十万部に達するとは、著者はもとより、誰もが予想しなかったことでした。
これは、ひとえに、
愛読者の皆様、
日経、文春の両出版社、
そして積極的に店のスペースを、不肖(ふしょう)私の本のために割(さ)いてくださった全国の書店のスタッフの方々のおかげです。
特に、無名の私の作品を取り上げ、文字通り「職を賭(と)して」出版にまでこぎ着けてくださった日経の担当者の方々には、お礼の申し上げようもありません。
「最初に井戸を掘ってくれた人のことを忘れてはならない」
という格言を、毎日、噛(か)みしめて、次回作、次々回作を腹案している昨今でございます。
本当に有り難うございました。
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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