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“お金の本”らしからぬ“お金の本”

“お金の本”らしからぬ“お金の本”

文:荻原 博子 (経済ジャーナリスト)

『老後のお金 絶対減らさず少しだけ増やす常識』 (文藝春秋 編)

出典 : #文春文庫
ジャンル : #趣味・実用

 実は、私も、お金にまつわる仕事をしていながら、お金の本を好んで読むほうではありません。仕事上で必要な本は読みますが、仕事以外ではほとんど読まない。なぜなら、今、出回っているお金の本のほとんどは、「ゼニ儲けの本」が多く、それを実践したからといって儲かるとは限らないと感じるから。中には、儲けるどころか、大切な虎の子の貯金を失いそうな指南をしている本も見えます。

 私もそうですが、多くの人が仕事以外で本を読む時に期待するのは、自分の知識を豊かにしてくれるだけでなく、未知の世界に対するワクワクした気持ちを抱かせてくれること。そして、その本の中に、自分と重ね合わせることができる人生を見るから。

 定年後の趣味を金にできるかと悩みながら、気に入った骨董品と悲喜こもごもの時間を過ごす作家、コレクションと借金の狭間で達観しているフランス文学者、思わず笑い、共感し、膝を打って感心する有名人のコラムを読んでいると、みんなお金に頓着しなさすぎるのではないかと心配にさえなります。お金と人生が楽しくコラボする中で、相続のシビアな問題やお金を介した人とのつながり方も、参考になると思います。

 そういう意味では、本書は、人によってはそれほどタメにならないかもしれませんが、色々な方々の人生観や生活感が詰まった、エンターテイメント的に楽しめるお金の本でもあります。

 そして、最後にこの本を読み終えたときに感じるでしょう。大切なのは、お金ではなく人生なのだということを。確かに、お金は必要。けれど、それは豊かな人生を支える補助輪のようなもので、必要だけれどそれに振り回されるのは御免。本当に幸せな人生を送るためには一番必要なのは、暖かな家族や友人などとの円滑な人間関係や好きなことができる環境。こうしたものがあっての豊かな老後で、お金はそこに到達するのに、あったほうがいい程度のもの。

 そういう意味では、『老後のお金』という本は、単なるお金の本というよりも、どういう生き方をすれば素敵に、困らずに、楽しく老後を生きられるのかということを教えてくれる、人生指南書のような1冊だと思います。

文春文庫
老後のお金
絶対減らさず少しだけ増やす常識
文藝春秋

定価:550円(税込)発売日:2013年05月10日

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