書評

“お金の本”らしからぬ“お金の本”

文: 荻原 博子 (経済ジャーナリスト)

『老後のお金 絶対減らさず少しだけ増やす常識』 (文藝春秋 編)

「お金の本」と言うと、小説やノンフィクションに比べて、身構える人が多いのではないでしょうか。

 それはたぶん、「難しいのではないか」「複雑で理解できないのではないか」「自分の今までのやり方と、遠い話なのではないか」と思うからでしょう。中には、見慣れない数字が並んでいるだけで眠くなる人もいるでしょう。

 そんな、ちょっと敬遠されそうなお金の本ですが、どの本もそこそこに売れているのは、いまの生活の中ではお金を無視して生きられないから。たぶん、知っておかないと大変なことになるという気持ちがあるからでしょう。

 特に、老後については、ここ数年、多くの人が不安を抱くようになってきています。以前ならば、老後に会社をリタイヤしても、退職金がしっかりもらえたし年金で過不足ない暮らしができました。ですから、投資しなくてはなどと余計なことを考えず、可愛い孫を膝に抱き、時々夫婦で旅行に行き、趣味が一緒の仲間と語らいながら充実した老後を過ごすことができました。

 ところが、ここ10年で、状況は一変しました。終身雇用制度が崩れ、年金も揺らぎ、子供も収入が増えないので親の面倒を見るどころか、親を頼りにしている。“自己責任”という言葉が定着し、自分の老後を自分で守らなくてはならなくなりました。

 こうして時代は変わったのに、これから老後を迎えようという方々の多くは、どうすればいいのかわからない。自力で豊かな老後を過ごす方法など、だれも教えてくれていないからです。

 不安だけが募る中で、せめて老後資金だけはなんとか増やしておかなくてはと焦り、慣れない投資をして、逆に老後の不安を拡大してしまう人も。

 しかも、本屋に行くと、並んでいるのは「1年で投資金が2倍になる」「あなたも億万長者になれる」「副収入で、月30万円」などというおいしい話ばかり。思わず、「ウソだろう」と心の中で呟やきながら、それでも本を手にして見るのは、このままでは負け組になってしまうのではないかと思うから。

 そんな方々がこの本を読むと、あまりに当たり前のことが正々堂々と書かれていることに驚くでしょう。

 生命保険は、そんなに必要ない。貯金が1番。投資をするなら素人に聞いたほうがいい。などなど、他の本ではあまりお目にかからない事柄が多い。また、なぜ不動産投資で失敗するのか、シニアの起業はどこでつまずくのか、どうすれば金融マンからお金を守れるのかなど、失敗に根ざした話が多い。

 そして、なによりもおもしろいのが、様々な筆者の、それぞれのお金に対する思いが透けて見えること。

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老後のお金

文藝春秋・編

定価:500円(税込) 発売日:2013年05月10日

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