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槍をキューに持ち替えた三波春夫

槍をキューに持ち替えた三波春夫

文・写真:「文藝春秋」写真資料部

 赤穂浪士討ち入り時の俵星玄蕃の槍ならぬビリヤードのキューを手に構えるのは、三波春夫。大正十二年(一九二三年)、新潟県に生まれた。本名北詰文司(きたづめ・ぶんじ)。

 浪曲師南篠文若(なんじょう・ふみわか)として十六歳でデビュー。昭和十九年(一九四四年)陸軍に応召し、中国に渡る。敗戦後、四年間に渡ってシベリアに抑留された。帰国後、浪曲師として復帰するが、「三波春夫」と改名して「チャンチキおけさ」で歌手デビューしたのは、昭和三十二年、三十三歳のときだった。遅咲きではあったが、大衆歌謡をはじめ、「東京五輪音頭」や大阪万博のテーマ曲「世界の国からこんにちは」をレパートリーとして、国民的歌手の地位を築いた。

<酒は体質的に飲めない。タバコも喫まない。たのしみはゴルフとビリヤードだという。ゴルフは月平均三日は出かける。ビリヤードは地方公演で時間さえあれば必ず店をさがすほどの熱の入れようだ。「どっちもかなり歩かされるから、運動不足の解消にいい」と、その効用も計算ずみである>(「文藝春秋」昭和四十七年九月号「日本の顔」より)

 写真はこのときに撮影された。健康には人一倍気を使っていたようだが、平成六年(一九九四年)、健康診断で前立腺にがんが見つかる。それでも、「お客様は神様です」の名言とともに、病気を周囲に隠してひたすら仕事に邁進した。平成十三年、逝去。

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