- 2015.10.06
- 書評
女性が読む“半沢直樹” 「こんな上司と働きたい」
文:外山 惠理 (TBSアナウンサー)
『ロスジェネの逆襲』 (池井戸潤 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
池井戸潤の人気シリーズ“半沢直樹”の第三作「ロスジェネの逆襲」が待望の文庫化。半沢を愛する女性三人が作品の魅力に迫る。
私が『ロスジェネの逆襲』で好きなところは、半沢直樹シリーズにかかせない〈倍返し〉はもちろんのこと、証券会社に出向した半沢の部下、森山雅弘の成長と、買収騒動に巻き込まれる若手社長・瀬名洋介との関係だ。
バブル時代に入行した先輩社員たちを尊敬できず、銀行の証券子会社という組織には何も期待せずに諦めかけていた三十歳の森山。彼なりに意見を主張したりと懸命に戦ってきたと思うが、組織のでっかさと自分のちっぽけさに、諦めるしかなかったのだと思う。普通の上司なら、「生意気だ」の一言で相手にしないだろうが、半沢は上司と部下でなく、〈人として〉彼と向き合った。結果、半沢のことを尊敬するようになっていく森山をうらやましく思った。
その森山が、中高の時の親友・瀬名に連絡しようか迷っていた時、半沢の「気にし過ぎだ。連絡してやればいいじゃないか。友達だったんなら喜ぶと思うが。(中略)自分が有名になって金持ちになったからって、そんなことで冷たくあしらうような男なのか、彼は」という言葉で、森山は瀬名に電話をかけるのだが、すぐに〈マサ〉と〈ヨースケ〉の関係に戻って話すところが微笑ましかった。
私は幼いころ、「一年生になったら」という歌が嫌いだった。友達百人いらないし、〈友達がたくさんいるイコールいい子〉みたいな感じが嫌でたまらなかった。ひねくれた子である。ただ、いまだに百人の友達よりも一人の親友のほうが、よっぽど心強いと思っている。相変わらず、頑固なやつである。
この小説の森山も瀬名も、友達が多いタイプではなかったかもしれない。でも、これからは最強の二人だと思う。いつも虐げられてきた世代だからこそ瀬名には「絶対に負けてほしくない」という森山に対し、「自分の境遇を世の中のせいにしたところで、結局虚しいだけなんだよ。ただし、オレがいう勝ち組は、大企業のサラリーマンのことじゃない。自分の仕事にプライドを持っている奴のこと(中略)、好きな仕事に誇りを持ってやっていられれば、オレは幸せだと思う」という瀬名。それを受け止める森山。ただの仲良しごっこではなく、言いたいことは言い合って、これから成長し合っていくんだろうな、とわくわくしてしまう。
半沢と森山が、祝勝会の後、二人で飲むシーンは、4ページほどだが何度も読み返した。
「戦え、森山(中略)。そしてオレも戦う。誰かが、そうやって戦っている以上、世の中は捨てたもんじゃない。そう信じることが大切なんじゃないだろうか」って、なんて勇気が出る言葉だろう! 上司と飲みに行きたくない若者が増えているらしいが、こんな上司とだったら、毎日でも飲みに行きたいと思うのではないだろうか。
半沢は自身の信念をこう語っている。
「正しいことを正しいといえること。世の中の常識と組織の常識を一致させること。ただ、それだけのことだ」
入社して、気付けば十八年。〈ただそれだけ〉っていうのが会社員には難しいんだよね……と思う自分にはならないように、時にはこのシリーズを再読しながら、これからも生きていきたい。
女性が読む“半沢直樹”
生方ななえ「仕事の本質が描かれている」
伊藤華英「時代が求めているヒーロー」
外山惠理「こんな上司と働きたい」
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