- 2015.10.05
- 書評
女性が読む“半沢直樹” 「時代が求めているヒーロー」
文:伊藤 華英 (北京・ロンドン五輪 競泳日本代表)
『ロスジェネの逆襲』 (池井戸潤 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
池井戸潤の人気シリーズ“半沢直樹”の第三作「ロスジェネの逆襲」が待望の文庫化。半沢を愛する女性三人が作品の魅力に迫る。
小さいころから、両親に読書を薦められ、いつの間にか本が好きになったのですが、私は“本には答えがある”と思っています。自分が悩んだ時、壁を破るためのヒントが必ずあるんです。
『ロスジェネの逆襲』でも、大切な言葉に出会うことができました。「自分の仕事にプライドを持てるかどうか(中略)好きな仕事に誇りを持ってやっていられれば、オレは幸せだと思う」という瀬名洋介のセリフです。
北京五輪に出場したとき、百m背泳ぎで八位、二百mでは十二位と、メダルには手が届きませんでした。当時は、メダルを取れなければ成功ではないと思っていたのですが、二百m背泳ぎで七位だったオーストラリアの友人に「私は五輪に出れた自分を誇りに思うよ。華英はどう思うの?」と聞かれました。このとき、「誇りに思っていない」ことに気が付いたんです。スポーツは結果がすべての世界ですが、一生懸命やった自分を誇りに思うことも大切です。「プライドを持て」という瀬名のセリフを読んで、そのことを思い出しましたね。
最近、社会に出て働いてるロスジェネ世代の友人からこんな不満を聞くことが増えてきました。「二十代はただ、上の言うことを聞いて働いていた。三十代になって仕事がつまらない」と。東京セントラル証券の森山雅弘も最初は、バブル世代に対して不満を持っています。そんなとき、上司である半沢直樹から「世の中を儚み、文句をいったり腐してみたりする――。でもそんなことは誰にだってできる。(中略)お前たちが虐げられた世代なら、どうすればそういう世代が二度と出てこないようになるのか、その答えを探すべきなんじゃないか」と突き付けられます。
社会に出たら「言われなくても分かっておけよ」というケースが多くて、大事なことを教えてくれる存在は意外と少ないですよね。半沢のように「お前はどうするんだ」と言ってくれる人と出会うことで、人は成長できるんだなと思います。実際私も選手時代はそうでした。才能だけでタイムが伸びているときは良かったのですが、五輪を目指すうちに壁に当たります。そのときに、ぶれない信念を持った指導者と出会えたことで「自分のやり方」を見つけることが出来たのです。
ロンドン五輪後、現役を引退しました。今、大学の授業や子供たちに水泳を教える機会によく言うのは、「一生懸命努力していれば、チャンスは見える」ということです。頑張っていれば、素晴らしい出会いに気づくことができる。半沢の言葉に反応できた森山も、きっと情熱を持って仕事をしていたんだと思います。
留学したり、海外のアスリートと交流する中で、日本は少し周りに配慮しすぎなのかな、と感じてきました。もう少し“個性が活きる社会”になってもいいのではないでしょうか。これからの時代は、半沢のように、ルールの中で、自分らしさを発揮していくことが大切だと思っています。そういう意味では、組織の論理と戦う主人公半沢直樹は、時代が求めているヒーローなのかもしれません。
女性が読む“半沢直樹”
生方ななえ「仕事の本質が描かれている」
伊藤華英「時代が求めているヒーロー」
外山惠理「こんな上司と働きたい」
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