- 2015.10.04
- 書評
女性が読む“半沢直樹”「仕事の本質が描かれている」
文:生方 ななえ (モデル)
『ロスジェネの逆襲』 (池井戸潤 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
池井戸潤の人気シリーズ“半沢直樹”の第三作「ロスジェネの逆襲」が待望の文庫化。半沢を愛する女性三人が作品の魅力に迫る。
池井戸潤さんの小説を初めて読んだのは、『空飛ぶタイヤ』でした。以来、作品を拝読していますが、この「半沢直樹」のシリーズは、至福のエンターテイメントとして、スカッとさせてくれるうえに、仕事をしていくうえで大切な「本質」が書かれているんです。
主人公である半沢の魅力は、ヒーローでありながらも、彼が“善い人というだけじゃない”部分だと思います。一作目『オレたちバブル入行組』では、相手をコテンパンにやっつけるかと思いきや、最後は自分が望み通りの部署に行くために交渉するんです。ちょっと狡いですよね。一方で、二作目『オレたち花のバブル組』では、共に戦う近藤直弼が、出向先から銀行に戻れる条件を提示されたとき、半沢は「本当に欲しいチャンスは掴めよ」と助言するんです。結果、近藤は自身の出向解除を選び、半沢は窮地に陥りますが、「すまなかった」と謝る近藤に対し、――人生を諦めかけていた友人が再び輝くのを見るのはいいものだ――と友の再起を祝福するのです。ここはグッときましたね。
私がモデルとして仕事を始めたのは二〇〇〇年。大学を卒業したのが二〇〇二年ですから、まさにロスジェネ世代として、『ロスジェネの逆襲』を興味深く読みました。
具体的には、半沢の部下であるロスジェネ世代の森山雅弘の成長が胸に刺さりました。森山は、半沢と仕事をしたことで、“いつまでも不満を抱えているだけではだめなんだ”ということに気づかされ、成長していきます。上司の顔色だけを見ていたり、不平不満をこぼすことばかりにエネルギーを注いでいると、本当にすべきことが見えてこない。仕事とは結局「自分次第」。時代のせいにするよりも、自分自身で何に取り組むかだ、という池井戸さんの熱いメッセージに共感しました。
この小説のラストで、森山は、瀬名洋介社長の会社に好条件で誘われますが、「いまの会社で、オレはいつも不満を抱えてた。こんなはずじゃないという思いを抱えながら、ずっと働いてきたんだ。だけど、今回(中略)働くことの意味がわかったような気がする。(中略)だから、いまは転職しない」と断るんですよね。証券会社の立場から、力になりたいと。この決断がかっこいい。森山は“信念の人”と出会ったことで、ここから本物の仕事をしていくんだろうなという気がします。
私にも“仕事の本質”に気づかせてくれる出会いがありました。デビュー以来、モデルという仕事に忙しく一生懸命取り組んできましたが、二十六歳のとき、あるカメラマンと仕事をしたことで、プロのモデルとは何かを本気で考えるようになりました。ファッションの世界でモノづくりに携わる中で、自分に何ができるかを突き詰めて考え、譲れない部分は譲れないという信念を持つようになりました。半沢のようにはいかないですが、小っちゃく戦い始めたんです(笑)。そこから、モデルとして、本当の第一歩を踏み出せたような気がしています。
池井戸さんの作品には言葉の力があって、「そうだ!」と心に響くメッセージがあふれている。私たち読者をピュアな気持ちに戻らせてくれる小説だと思います。
女性が読む“半沢直樹”
生方ななえ「仕事の本質が描かれている」
伊藤華英「時代が求めているヒーロー」
外山惠理「こんな上司と働きたい」
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