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奮闘する編集者が見つけたふたつのP

奮闘する編集者が見つけたふたつのP

文:大矢 博子 (書評家)

『プリティが多すぎる』 (大崎梢 著)

出典 : #文春文庫
ジャンル : #エンタメ・ミステリ

 しかしそれだけなら、よくあるお仕事小説の域を出ない。本書が素晴らしいのは、南吉が出会うピピモ――まだ中学生の、ピピン専属のモデルたちの存在だ。

「ピピン」には中学一年生から高校一年生の専属モデルたちがいる。人気のある子は表紙を飾り、ページにもたくさん写真が載るのに対し、小さくしか扱ってもらえない子もいる。彼女達は十二歳から十五歳という子どもでありながら、厳しい競争に晒されている。

 著者の大崎さんは本書の執筆にあたり、少女モデルを取材して彼女達が「大人である」ことに驚いたという。たとえば四人の女の子がいて、その中のひとりだけ雑誌のモデルを継続できるという状況があったとする。「自信なーい」「○○ちゃんならできるよー」というような子供染みた会話は絶対しないのだそうだ。誰もその話題には触れない。落ちた子も別のオーディションで受かるかもしれない。別の現場で会うかもしれない。スタッフやモデルの間では大人の関係を維持していないと仕事にならないのだという。

 つまり中学生の彼女たちの方がプロフェッショナルなのである。そんな彼女たちを、南吉は最初、「女の子なんだから」「子どもなんだから」という目で見て、あれこれ勘ぐったり心配したりするが、いつしか逆に彼女たちから、プロとは何かを教えられる。

 ピピモたちのエピソードは驚きの連続だ。読者は南吉と変わらない。南吉と同じような想像をし、南吉と同じショックを受けるに違いない。ここでもまた、読者は「だめなやつ」のはずの南吉に同化する。

 しかもそんなプロの少女たちに対し、あまちゃんの南吉くんはとてつもない失敗を――いや、そこは本文で読んでいただこう。

 仕事とは何か、仕事に向き合う姿勢とは何か。それは中学生女子だろうが二十代青年だろうが、いや、何歳だろうがどんな職業だろうが変わらないのである。仕事を仕事たらしめるもの。それはプロ意識に他ならない。

 Professional――それが南吉と読者が向き合う、ひとつめのPだ。

 そして本物のプロになるべく、さまざまな失敗を経て一歩ずつ進む南吉くんの成長と、オーディションに合格していきなりプロの中に放り込まれた幼い女子中学生たちの成長――Progress。あの番組テーマソングのタイトルでもあるこの言葉が、本書に込められたふたつめのPである。

 南吉くんは、やっとスタートラインに立ったところだ。希望と違う部署への配属は、夢の障害にはならない。むしろ、夢を後押ししてくれることに、いつか気付くだろう。そのために、今の場所で、一歩、前に進もう。不本意な場所で踞(うずくま)っているあなたも、一緒に。その「一歩」とは何か。答は本書にある。

【次ページ】

文春文庫
プリティが多すぎる
大崎梢

定価:748円(税込)発売日:2014年10月10日

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