書評

奮闘する編集者が見つけたふたつのP

文: 大矢 博子 (書評家)

『プリティが多すぎる』 (大崎梢 著)

 最後のページを読んだとき、頭の中に、仕事の流儀を紹介するNHKの人気ドキュメンタリー番組のテーマソングが流れた。

 南吉くんの奮闘を静かに讃える、橋本さとしさんのナレーションが聞こえた気がした。

 大崎梢の看板と言えば、本に関わる仕事をモチーフに、そのインサイドレポートとミステリを絡めた作品群だ。書店員を主人公にした「成風堂書店事件メモ」シリーズや出版社の営業マンである井辻くんのシリーズ(ともに創元推理文庫)、漫画家を主人公にした短編「ウェイク・アップ」(実業之日本社文庫『エール!(1)』所収)などがそれに当たる。

 本書もまた、出版社が舞台だ。名門と呼ばれる老舗の総合出版社・千石社で働く入社三年目の編集職、新見佳孝――通称・南吉くんが新たに配属された雑誌編集部で奮闘する物語である。だがここに、十八番の「ミステリ」はない。純然たるお仕事小説である。

 なぜか。それはミステリにするまでもなく、南吉の前には解かれるべき大きな謎が横たわっているからだ。いや、新見だけではない。それは仕事を持つ、あるいはこれから仕事に就こうとしているすべての読者の前にも、等しく横たわっている謎だ。

 その謎が何か――というのは、舞台と目次にヒントがある。

 舞台となるのは、ローティーン向けのファッション雑誌「ピピン」だ。キャッチコピーは「Pretty Pop Pure Pipin 女の子はPが好き」。それに合わせるように、目次にもPが並ぶ。PINK、PRIDE、POLICY、PARTY、PINCH、PRESENT……これらは、各章で新見がぶつかったり味わったりする出来事や思いを表している。

 これだけPで始まる言葉を集めながら、いちばん大きなものが抜けている。この作品の最大のテーマであるがゆえに、章タイトルにはせず、作品全体で表そうとした最も大事なふたつのP。南吉と読者が解くべき謎は、そのふたつのPとは何か、だ。

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プリティが多すぎる
大崎梢・著

定価:本体590円+税 発売日:2014年10月10日

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