インタビューほか

会社は誰のものか

「本の話」編集部

『バイアウト』 (幸田真音 著)

幸田  その前から村上ファンドやスティール・パートナーズが世間を賑わせていて、日本の企業経営者にも新たな資質が問われる時代が始まっていました。ただ儲かればいい、伝統を引き継いでいけばいい、という時代から、買収されてしまうかもしれないという危機感を持つことや、会社防衛のためにどうやって株価を高めるか、株主に対する責任といった新たな指標が登場する時代が始まったわけです。それも決して大企業ばかりではなく、小さいけれど魅力的なものをビジネスモデルとして持っている企業ほど、狙われてしまう。そうした皮肉な現実を訴えたかったんです。

倉都  『バイアウト』誕生の頃は、まさに会社って何だとか、誰のものかという議論があって、その裏には当時の小泉首相(二〇〇一年四月~〇六年九月)の改革という大きな流れがあった。その中で村上さんが出てきたわけです。私自身はその中で、ほんとに会社って一体どうやってできてきたのか、株主ってどういうふうに生まれたのかという原理のほうに興味があった。『バイアウト』で起きる企業買収にしても、そこには必ず金融の取引が絡むわけですから、じゃあ、金融取引って誰がどういうふうに始めたのか、そうした突き詰めた原理みたいなものを知りたくなったわけです。

──そのあたりが『金融史がわかれば世界がわかる』(二〇〇五年刊)などの倉都さんの著作に繋がるわけですね。

幸田  倉都さんはマーケット出身なのに、学者タイプですよね。歴史的な視点とグローバルな視界と、縦横両方をカバーしていらして、理論的にまとめられた著作を出す一方で、プロ向けの金融情報を提供していらっしゃる。私は小説のためにいろんな方を取材しすぎたり、夥(おびただ)しい情報に接しすぎて、自分の座標軸を見失いそうになったときに、倉都さんの著作を読んだり、話を伺ったりして、自分の立ち位置を確認しているんですよ。

倉都  ありがとうございます。

幸田  「謝辞」にも書きましたが、八〇年代半ばにニューヨークでバンカース本社のセミナーに出たことがあるんです。そのときM&AやLBOのスキームのレクチャーを初めて受けた。で、何、これは、と思ったんです。だって、買収相手の資産を担保に資金調達をして、それでその相手を買うって、いったい何なのよって。当時の私は主人公の広田美潮(みしお)と同じぐらいの歳でした。それから日本に村上ファンドが出てくるまで二十年近くかかっているんです。二〇〇四年の春、私が作家になるきっかけになった病気が再発して、その手術で入院中、病室でテレビを見ていたら主婦向けの昼間のワイドショーでもLBOの解説をしていたんです。それで『バイアウト』を書かなくちゃと思い立ったんです。

倉都  私もずっと金融やっていましたけど、レ(L)バレッジド・バ(B)イア(O)ウトなんて考えもつかなかった。日本人のメンタリティーとして、まずこれは出てこないですね。

幸田  そういう発想自体がまず生まれないでしょう。

バイアウト
幸田 真音・著

定価:680円(税込) 発売日:2009年11月10日

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