これからの日本経済
幸田 これだけの金融クラッシュが起きたことで、資金調達の背景が激変しました。だから、以前のようなマネー型のM&A、つまりファイナンスして企業を買収するというビジネスモデルが困難になってきた。これはある意味いいことだと思うんです。LBOでファイナンスができた時代には、たとえば百億円のものを二十億円ぐらいの元手で買えて、それを百二十億で売って大きく儲けることができた。いわゆる乗っ取り屋というか、コーポレート・レーダーの「転がし」が可能だったわけですね。それが、百億の企業を買うには百億持っていなきゃできなくなった。だから、以前のようにデスクの上で、エクセルを操って数字をはじき出して企業買収をするのではなく、本当にその業界に精通し、企業間のシナジー効果を吟味して、買収を考える時代になりました。お互い本当に相乗効果が得られるような、本来あるべきM&Aの時代になってきています。
倉都 本当の意味での事業再編が行われるようになりましたね。
幸田 たとえば少子化などの外部環境の変化で、市場規模がどんどん縮小してきた業界で、どうやって企業が生き延び、再生していくか。そういう過程で、M&Aに逆にいろいろな可能性が生まれてきていると思います。
倉都 『バイアウト』は今読んだほうがいい。この作品の背景には構造改革や小泉改革がある。そして民主党政権の誕生した今、完全にアンチ小泉になってしまった。振り子が逆に振れただけなんです。その契機の一つに村上ファンドの失敗があった。でもね、ちょっと待ってほしい。私は小泉改革のやり方には賛成しませんが、改革を完全に否定したら昔の護送船団の金融業界に戻ってしまうだけなんです。なぜ村上ファンドは失敗したのか、ライブドアは失敗したのか、そこをちゃんと見るためにも、『バイアウト』は格好の教材です。何が間違っていたのかをこの本から読み取れないと、次の経済改革は生まれないと思います。
幸田 偏った既得権に守られて一部の人間が得をする社会はフェアではないし、効率も悪い。規制を緩和すれば新たなチャンスが生まれるんです。でも、それと並行してルールをしっかり補強し、違反者は厳しく監視する。規制緩和と監視という両輪で進むべきなんです。規制緩和だけを悪者にして、全部逆戻りでは何も学ばなかったことになります。
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