書評

レコード批評のはなし 評論界の裏話も交えて

文: 中野 雄 (音楽プロデューサー)

『新版 クラシックCDの名盤』 (宇野功芳、中野雄、福島章恭 著)

  ところが私の知る限り、宇野功芳先生はかかる風潮を一顧だにしない剛直評論家の一人で、気に入った演奏は褒められた方が顔を赧(あか)らめるほど激賞するが、「駄目だ」となったら徹底的、完膚(かんぷ)無きまでにこきおろす。手心は一切加えない。ときには一~二行しか批評文をお書きにならないこともある。「書く内容が無い、つまらない演奏だから」だそうである。だから楽壇の大御所の一人から、「あいつを執筆者の列から外せ」という要求まで出版社にあったと聞き及ぶが、「自らの感性にあくまでも忠実」という執筆哲学は、巷間「宇野節」と称される個性的な名文と相俟(あいま)って、広く愛好家の支持を集めており、レコード評論界トップの座はここ二十年余り動かない。

  音楽業界とは関わりのない文藝春秋から上梓(じょうし)するのだから、パートナーの条件の第一は不偏不党、あくまでも愛好家本位の執筆者であること(本来、当たり前のことなのであるが)。第二は著名人で、筆者として名を連ねるだけで一定部数の売り上げが期待できること(商品の信用度はブランドで決まるから)。この二つの必要条件を満たすのは、小生日頃の交友範囲では「宇野先生しかいない。そして、宇野先生が加わって下されば、成功の確率が高まる」。この事実が文藝春秋本社にほど近い、東京メトロ有楽町線・麹町駅の改札口で閃いたアイデアの背景にあったのだなと、いまにして思う。

  快諾された宇野先生からは、「若手の有望株です。ぼくの後継候補者の一人」と、福島章恭氏を鼎談のパートナーに推薦された。私の提案した中堅・大家はことごとく却下。「フルトヴェングラーを三人で褒めたって、仕方がないじゃないですか」と言われれば、返す言葉もなかった。そして音楽出版界、レコード業界のヒモが一切ついていない、CDの贈呈は一切受け付けず、全て「自腹を切って買う」という爽やかな若手評論家の起用は、企画大成功の一因となった。

「共著本は売れない」という業界のジンクスを覆し、『クラシックCDの名盤』と、続編『クラシックCDの名盤演奏家篇』は合計二十六刷、十万部を遥かに超える、クラシック出版界稀有のベストセラーとなった。そして初版からほぼ十年、愛読者からの「改訂増補版を」という声の高まりを受けて、われら三人は心機一転、「新版」の企画と執筆に取組むことになる。

  だが難関は収録アーティストの取捨選択であった。激論何日かを経て、消えた音楽家もいたが、新規登場も増えて、新書のページ数は遂に四百五十ページを超えた。しかし通読していただいても、拾い読みされても「飽きない。絶対に面白い」という自信が私達にはある。

新版 クラシックCDの名盤
宇野 功芳・著 , 中野 雄・著 , 福島 章恭・著

定価:1260円(税込) 発売日:2009年11月20日

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