初めての阿佐田哲也だった。大学を卒業し、ふらふらバイト生活を送っていたぼくは一読驚愕した。世のなかにはこんな大人がいるのか。こんなに恐ろしくも魅力的なギャンブルの世界があるのか。この作品は中年になった坊や哲が、留置場で知りあった大学生にプロのギャンブラーのイロハを教える構造になっている。扱われるギャンブルは競艇、麻雀、ブラックジャック、ルーレット、バカラと多彩。すべての種目で坊や哲は必勝法を語るのだが、ひと言ひと言が生きていくうえでの実にまっとうな人生訓になっている。「周囲の人に感謝しよう」とか「ご先祖様を大切に」といった毒にも薬にもならないお題目ではなく、非情の世界を生き延びるための実戦的なルールの数々だ。名もない大学生の「ヒヨッ子」は、そのルールを学ぶことでギャンブルの腕をめきめきとあげていく。ひとりの若者が自分の専門を決定し、師を選び、実際に闘いを重ね、成長していく。それが青春小説の骨格で、『新麻雀放浪記』は基本に忠実なストレートど真ん中の青春小説である。若者でなくても、今生きることに迷っている人、善人丸出しの前向きなスローガンにうんざりしている人に絶対のお奨め。
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