- 2012.09.07
- 書評
理系・文系の垣根を超えて歴史を俯瞰、
今最も求められる力が
知的興奮とともに得られる
文:石川 勝也 (開成中学高校教諭)
『137億年の物語 宇宙が始まってから今日までの全歴史』 (クリストファー・ロイド 著 野中香方子 訳)
ジャンル :
#ノンフィクション
現在、高校や大学における学問は専門分化し、それぞれの境界領域に溝があるように見える。多くの人々が理系・文系という分け方にこだわっており、自分は理系だから社会系はわからないとか、文系だから理科はわからないと平然と言っている。大学受験でも、多くの大学で理系・文系に分けられて受験するので、それを助長するような形になっている。
この『137億年の物語 宇宙が始まってから今日までの全歴史』はそこに一石を投じたといえる。これまでの歴史書と違い、この本では宇宙の開闢(かいびゃく)であるビッグバンから始まり、人類以前の歴史をひととおりまとめた上で人類の歴史を綴っている。宇宙や地球の歴史全体の中で人類の歴史を語っているのである。
その内容は、宇宙物理学や天文学から始まって、生命の誕生では生物学や化学、化石や地球の歴史では地質学、プレートテクトニクスなどの地球物理学とひととおりの科学的なものの考え方が登場する。
一方、後半では人類の文化や戦争、宗教、発明といった人類の歴史を民族を越えた多面的な見方で綴っている。しかも、その歴史の部分にも、気候変動や金属の利用の話など、理系的なものの見方から文明の興亡が語られるのである。読者は筆者のねらいである理系・文系にこだわらないものの見方に引き込まれていくにちがいない。
筆者のロイド氏はケンブリッジ大学で歴史を学んだ後、サンデータイムス紙の科学記者として活躍したということなので、理系・文系にこだわらない見方ができるのも頷ける。