書評

理系・文系の垣根を超えて歴史を俯瞰、
今最も求められる力が
知的興奮とともに得られる

文: 石川 勝也 (開成中学高校教諭)

『137億年の物語 宇宙が始まってから今日までの全歴史』 (クリストファー・ロイド 著  野中香方子 訳)

学際から世界は見える

 私が中学・高校で教えているのは地学である。地学は物理・化学・生物とともに理科の1分野であるが、実際は物理・化学・生物の内容が融合したものである。天文や気象、地球物理、岩石、地質や化石までを扱うわけであるので、物理や化学、生物の知識なしには成り立たない総合理科である。幅広い理系の見方をする上では格好の分野であるが、現在の受験制度では地学を選択すると多くの理科系の大学が受験できないため、地学の選択者の95%以上が文科系の生徒である。このままでは地学が廃れてしまうため、理科系の生徒にも地学を学んでほしいが、私は文科系の生徒たちにも地学の幅広い見方を学んでほしいと思っている。

 文系の卒業生の中には、行政の現場につく者も多い。ある卒業生は防災室に勤務することになった。地震や津波、火山の噴火など、大きな災害があったとき、現場で何が起きていて、どういった危険があるのかなど、地学を学んでいたためによく想像でき、理解できたと言っていた。

 一方、理系の卒業生には、地震や火山の研究者になる者もいる。彼らに聞くと、大学で研究するのに古文書を読む必要があるのだという。過去の歴史の中でいつ地震や火山の噴火があったかを知ることが必要なのだろう。

 ふと、私の家の近くで縄文時代の遺跡が発見されたときのことを思い出した。見学に行ったところ考古学者が石器を用途別に分類していたので、私が岩石の種類ごとには分類しないのかと尋ねると、岩石がわからないからしないという。岩石の種類や産地がわかれば交易ルートがわかるので、種類を教えてあげたら大変喜ばれた。要するに理系や文系にこだわらない幅広い見方が必要とされているのである。

 3・11後、日本が直面している課題をみても、地震や津波にどうそなえるかから原子力発電をどう考えるかにいたるまで、理系、文系の垣根を超えた知恵が必要とされている。

 これから社会に出ようとする人、社会で様々な問題に取り組んでいる人も、ぜひこの本で理系文系双方からの知見とグローバルなものの見方を学んでいただきたい。

 ところでこの本のページの端には時刻が書いてある。137億年を24時間にしたとき、何時頃のできごとかが示されているわけだ。たとえば生命が誕生したのは5時20分、恐竜が絶滅したのは23時15分といったような具合だ。ところが、42テーマ中15番目の狩猟採集民の話からあとが全部23時59分59秒という最後の1秒間になっている。今さらながら、人類の歴史の宇宙全体に対するちっぽけさが感じられた。そういう人類の歴史や地球、宇宙の中での位置づけも再発見できるにちがいない。

137億年の物語

クリストファー・ロイド・著  野中香方子・訳

定価:3140円(税込) 発売日:2012年09月08日

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