──主人公の長妻をアラサーにしたのは、失敗しやすい年代ということですか。
堂場 いや、そういうわけではありません。ただ、いまの三十歳前後の男の子と話していると、シケてるなぁと思うことが多い。結婚をしていない人も多いし、変な脱力感があるんですね。この脱力感と功名心が変なブレンドになると、誤った方向にいくんだろうとは思ってました。
──常に「抜かれている」長妻の気持ちに、同情する読者も多いでしょうね。
堂場 仕事の怖さって、「失敗が怖い」という面と「仲間が怖い」という面があると思います。一緒にやっている先輩が怖いときってあるじゃないですか。長妻はまさにこの二つの苦しみに苛(さいな)まれ、追い込まれていきます。ただ、僕はアラサー男子には同情的なんですよ。彼らは就職氷河期と呼ばれる時期に、新卒として社会に出ています。これで強くなったわけじゃなくて、逆に揺らいでいるというか、被害者としての意識が強い世代ですよね。入社したときから、経費削減を言われた世代ですし。
──もう一人の主人公・市川は四十代の社会部キャップ。スクープも数多く出し、社内でも一目置かれている存在です。
堂場 新聞業界で四十代というのはとても難しい年代なんです。書くのが好きでこの世界に入った人たちですが、生涯書き続けられるのは、論説委員などほんの一部。あとは管理職になっていきます。市川はまさにその岐路にたっている。生涯記者でいたい市川は、ある意味、長妻よりも追い込まれているんです。彼は手柄をたてて、社内で物を言えるように足場を固めないといけないのです。人事は自分では決められません。これは、サラリーマンならどの業種でも同じことです。
──堂場さんの小説は内面描写がとても丁寧ですが、影響を受けた作家は誰ですか?
堂場 ネオハードボイルドといわれる世代の小説は、肌にあいました。例えば、ローレンス・ブロックです。主人公はぐずぐずしていて、何か問題を抱えている。親近感を持ちやすかった。僕がなぜ事件を書くかというと、事件は人間を極限の状態に追い込みます。そこで、人間の本音、またそれよりも深い、本性が顕(あらわ)になります。ミステリーの形をとっていても、人間の奥底にあるものを掘り出したいと思っています。
──昨年は年に八冊も刊行しています。二足のわらじですが、どうやって時間を作っているのですか?
堂場 朝、出勤前に馴染みの喫茶店で書いています。朝は夜の一・五倍で仕事が進みます。ただ、時間はどうにでもなるんです。これからは、量を質に転換していきたい。そんな転機に来ていると思っています。
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