書評

日常の思いもよらぬ躓きに
折り合いをつけるため

文: 東 えりか (書評家)

『トオリヌケ キンシ』 (加納朋子 著)

 本書は6作の病気に関わる短編が収録されている。多くは病人側から描かれており、痛みに寄り添い、苦しみを包み込んでくれるような読み心地である。

 ひとくくりに病気と言っても肉体的なものばかりではない。心の病気もあれば生まれつきの障害だってある。治るもの治らないもの、些細な痛みから命に係わる重篤なものまでひっくるめてみんな病気だ。患者はそれぞれ悩み苦しみ、何とか折り合いをつけていく。

 死の淵まで近づいた小説家だからこそ、描ける世界がここにある。

 表題作である『トオリヌケ キンシ』は小学生のおれと優等生の女子児童が、トオリヌケキンシの札の先で幼い友情を育む物語である。冒頭では病気の要素など気配さえ感じられないのに、そこには大人たちが庇わなければならない現実があった。

『平穏で平凡で、幸運な人生』ではある超能力のことが、『空蝉』では幼児虐待を受けた少年が、『フー・アー・ユー?』は相貌失認という顔の区別がつかない障害について、『座敷童と兎と亀と』は老人問題、そして『この出口の無い、閉ざされた部屋で』は加納朋子の経験が、物語となって綴られていく。

 そこには大上段に振りかぶったような、いかにもと訴えてくるような辛さや苦しさ、悲しみは描かれていない。むしろ日常を淡々と書き起こしていく中の一つの要素として病気や障害が存在している。思わぬところで躓いてしまった原因を突き止め、より良い解決法を導き出す。探偵役をしているのは、医者でも看護師でも医療関係者でもない、家族や近所の友だちだ。

 突然の病気に慌てふためくのはあたりまえだが、徐々に慣れ、治療が生活の流れに組みこまれれば、自分の健康に無頓着な人よりむしろ安全かもしれない。一病息災とはよく言ったもので、自分の身体からの声に敏感になるのは不幸なことではないだろう。

 すべてがハッピーエンドではないけれど、どれも「そうだったのか」とビックリした後に暖かい気持ちになれる、そんな物語を存分にご堪能あれ。

トオリヌケ キンシ
加納朋子・著

定価:本体1,400円+税 発売日:2014年10月14日

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