小説家・加納朋子のキャリアは20年以上になる。本書を読み終えてプロフィールをみたら、デビューからもうそんなに経つのかとちょっと驚いてしまった。推理作家の登竜門、鮎川哲也賞出身なのだがミステリーという範疇にとどまらない作風に魅せられ、長い年月の間に多くのファンが新作を待ち望む作家に成長した。
その人気作家、加納朋子が白血病だったことを知ったのは『無菌病棟より愛をこめて』(文春文庫)という闘病記が上梓された2012年のことだった。2010年の発病から骨髄移植を経て寛解し、自宅療養を過ごす様子が克明に記録されたこの本は、同じ病を得た人に強い希望を与える一冊になった。
やはり人気作家である夫の貫井徳郎や子供、自分の両親、兄弟との関係も病気によって変化してしまう。その戸惑いや死への恐怖が正直に記されていて、もし私が今、白血病と診断されたらこの本一冊を懐に入院すればいい、と本棚に収めたことを覚えている。
今年9月、文庫化に際して書き加えられた後書きには、健康優良とは言い難いもののマイペースで暮らしている様子が報告されていてほっとした。
重篤な病気になったのは悲しむべきことだったが、転んでもただで起きないのが作家の性(さが)。ネタを探すことに貪欲で、新しいことに出会ったら一度自分の懐に入れて熟成させ、新しい作品に取り込む。言葉は悪いが、命に係わる病気でさえ新しい経験として客観的に観察し、作品に生かそうというポジティブな姿勢が今の状況を生んだのかもしれない。
発病から4年。つらい経験を通して得た種が芽をだし、大きく花開いたのが新刊『トオリヌケ キンシ』である。
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