湊かなえ作品と言えば、デビュー作『告白』然り、二〇一三年に山本周五郎賞候補になった『母性』然り、「母親」が大きなテーマになっているのが特徴です。本書『花の鎖』もそうであると言えます。
本書の舞台は、東京から新幹線で一時間以上かかる地方都市から、さらに在来線で三〇分ほど行った田舎町。小さな町の中心は「アカシア商店街」。渓谷を有した風光明媚な土地柄です。第一章から第六章まで、「花」「雪」「月」の節に分かれ、それぞれのヒロインの物語が進められていきます。
「花」の主人公は、三年前に両親を事故で亡くし、祖母と二人暮しの梨花(二七歳)。勤めていた英会話スクールが経営破綻し、途方に暮れていた矢先、祖母が胃癌で入院します。生活費、入院費、手術費用に困窮した梨花は、「K」に援助を申し出ることを決意します。「K」とは、梨花が物心ついた頃から毎年十月二十日に大きな花束を母親宛てに贈ってくれていた人物。梨花の両親が亡くなった時にも経済的援助を申し出ている謎の人物です。
「雪」の主人公は、六歳年上の夫と二人暮しの美雪(二三歳)。高校卒業後、母方の伯父が役員をしている建設会社に就職し、同じ職場にいた和弥と出会い、三年前に結婚退職。夫婦仲は良いのですが、子宝に恵まれないことが悩み。伯父の息子であり、美雪の従兄弟にあたる陽介と一緒に新しい建築事務所を立ち上げた和弥が、希望通りの仕事を任されていないことも気に掛かっています。
「月」の主人公は、母親と二人暮しの紗月(二五歳)。学生時代に描いた花のイラストが出版社の目に留まり、イラストレーターとして画集を出版したこともある才能の持ち主。公民館で水彩画の講師をしているかたわら、和菓子屋「梅香堂」でアルバイトをしています。ある日、短大卒業後から絶縁状態にあった友人希美子と五年ぶりに会うと、希美子の夫である浩一を助けてほしいと頼まれます。紗月しか助けられる人がいないのだ、と。紗月はそれを厳しい言葉で一蹴します。
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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