諸葛亮に処罰された陳寿の父親
――『外伝』には正史『三国志』の作者である陳寿の評伝も収められています。
宮城谷 陳寿の父親は、諸葛亮に処断された馬謖(ばしょく)の参軍(参謀)で、彼も処罰を受けています。しかし彼は息子である陳寿に諸葛亮への恨みをいうことを厳しく禁じ、その理由を何もいわぬまま亡くなります。その沈黙が陳寿を歴史に向かわせ、将来的に『三国志』を書かせることになります。
三国時代が終わってすぐに『三国志』を書きあげたことはその資料収集能力も含め驚異的なことです。日本でいえば明治の初めに江戸300年の歴史書を書くようなことですから。大変な労作でありながら、陳寿は『三国志』の中で父親のことを何も書いていません。それは父親が黙して語らなかったことに重要な意味を感じたからだと思います。だから陳寿は長大な歴史書を書きながら、書かれえない歴史の沈黙の部分、その深さについて、常に思いを馳せていたのではないでしょうか。
――『外伝』と同時期に『三国志読本』も刊行されますね。こちらにはインタビュー、自作解説、さまざまな論考、水上勉氏や江夏豊氏、そして白川静氏などの多彩なジャンルの方々との対談などが収められています。
宮城谷 非常に多様性に富んだ本になったと思います。『三国志』を書いている12年のあいだに、こんなにもいろいろな人と喋り、いろいろな考えを積み重ねてきたのかと自分でも驚いています。対談に登場して下さった白川静先生は、自分が生きているうちに一度はお目にかかりたいと思っていた方のひとりでした。それが叶ったのは、ただただ一生懸命に事に当たったこと――私の場合は小説を書くことでしたが――に対してのご褒美だったのかもしれません。
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