私は、私の中には二人の自分が存在するのではないかと思っている。一人は自民党の衆議院議員として、ただひたすら自分の仕事に夢中になっている人間である。そしてもう一人、突き放した冷めた目で物事を眺めている人間がいる。
実は「政治活動をする与謝野馨」は麻生太郎内閣で財務、金融担当、経済財政担当の経済三大臣を兼務し、一生懸命に働いていたつもりだ。しかし、もう一人の「冷徹な与謝野馨」から見れば、昨年の自民党政権のパフォーマンスは国民の信頼と好感を失い、総選挙に負けても仕方がなかった。
昨年八月の総選挙で歴史的な惨敗を喫した当初、私には二つの屈折した思いが去来した。一つは長い間政権にいた人間が、政策決定に携われない現実への寂寥感とも言うべき思い。もう一つは民主党が政権を取った以上は、国の責任者として立派に政策を遂行してほしいという思いである。
昨年の衆院選で民主党が掲げたマニフェスト(政権公約)。私は財政の論理から言っても、すべてを実現できるはずがないと考えていたが、彼らは国民との契約だと断言し、それを掲げて選挙に勝った。そうである以上、一〇〇パーセント実現すべく努力しないわけにはいかない、とも見ていた。
現実に直面した民主党政権はまだ何も実現できていないと言っても過言ではない。理由を聞くと言い訳がましいことも多い。マニフェスト自体に日本社会はこうあるべきだという基本理念がうかがえず、党内のあらゆる言い分をホチキスで留めただけではないのか、とはなはだ疑問を持っている。
国民に約束し、政権を取った以上は実現してみせるのが政治家の責務ではないか。そうした観点に立ち、私はこの本の中で三つのことを申し上げたつもりである。
第一に、政権に就いた以上はこの先、財政の責任は民主党政権が負うのだ、という強い使命感を持ってもらわなければならない。今日まで日本の財政を悪化させたのが自民党の責任であるのは言うまでもないが、もはや民主党もその重荷を逃れられない。
責任感の示し方として「抱え込んだ巨額の国の債務をすぐに減らせ」などと不可能なことを要求するつもりはない。まず財政再建の意欲をしっかり持ち、中長期の展望や再建の目標を国民にきちんと示すべきだ。
第二に民主党政権は外交・安全保障や税制・社会保障のあり方などの基本政策について、国の将来像を提示する責務がある。
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