- 2016.11.09
- インタビュー・対談
誰もが抱える孤独をこじらせた少年の、もがきながらの成長を描く物語
「本の話」編集部
『あしたはひとりにしてくれ』 (竹宮ゆゆこ 著)
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
――男子高校生の瑛人が主人公の物語は、どのようなところから生まれたのでしょうか。
まだ、物語が定まっていないときに、担当の編集者さんとの打ち合わせのなかで、フィギュアスケートの羽生結弦選手が話題に上がったんです。ちょうど、試合前に怪我をしたときで、その鬼気迫る姿が「鬼神」のようでした。そのときに、傷を負いながらも凛とした男子の姿に、すごく鮮烈な印象を受けたんです。みずみずしい男子のよさがあった。羽生選手はモデルではありませんが、瑛人という十代の男子高校生を主人公に定めるきっかけになりました。
――瑛人は、家族思いのとても「いい子」ですが、ひとしれず孤独感に苦しんでいる。いわば「孤独をこじらせた」少年です。
瑛人は自分だけが孤独だと思っています。でも、私は、一歩目に「深いところではみんなそうだよ」ということを書きたかった。二歩目に「そして、君も孤独だ」と伝えたかった。自分だけでなく、みんな孤独ということに気付けていない視野の狭さ、未熟さが、この物語の始まりです。自分の孤独にしか気づけない若さを書きたかった。そして、三歩目が「そのことを否定しない」というものでした。それは当たり前なことだと。
書き終えた今だから、これは成長譚だったのかなと思います。書きながら、瑛人を成長させようと思ったわけではありません。気づいたら、この物語の中で、瑛人は自然の摂理に従うように勝手に成長していました。そして自分の成長を証明したがっていた。わかりやすい敵がいれば、成長の証明はたやすいです。戦ってそれを倒せばいい。でも現実には、襲い掛かってくる敵はいない。瑛人は自分の中に敵を探して、内部にもぐってわざわざ「敵」を作ろうとしている。それだと視野が狭くなる。彼はこの物語を通して外側に「他人」を見つけられた。それがアイスです。
――成長の儀式としての戦いのかわりに「他人」を見つけて視野が広がったわけですね。
アイスと出会って、彼は他者の孤独を見つけます。他人の中の孤独を見ようとする試みが彼にとっての戦いになる。それを経て、視野が広がることが成長になったのだと思います。
そして、自分自身をも見つけることができた。これはそのいくつかの発見に至るまでのストーリーだったんだと書き終えて思います。
アイスもまた孤独な人です。彼女は瑛人と比べると大人のはずなんだけれど、大人にはなりきれていない。彼女の場合は、自分の思い通りに愛してくれない人、という「敵」が外部にはっきり姿を持っています。そこは瑛人との違いですね。それゆえに閉じてもいる。大人としての矜持もあるから、切羽詰った自分を出せない。そんな彼女も、物語の中で成長できたと思います。
――竹宮さんならではのキャラクターの魅力にあふれた物語になりました。
若さゆえの痛みがあるからこそ、人を好きになれるし、自分も好きになれる。そういうのを経てきた命だから、キャラクターに血と肉ができて、命が宿ると思うんですね。
――後半、居候の高野橋さんが、重要な役割を担います。
彼の場合は、社会全体が敵だったと思います。そのなかで獣の感性で生きてきた。「大人」というのには、特殊な存在です。彼は人生の主役になることをあきらめていて、それを瑛人に託している。物語のなかで瑛人の母が叫ぶ「あなたはまだダメになんかなってない」というのは、私自身が彼に向けた叫びでもありました。
――『あしたはひとりにしてくれ』というタイトルの意味が最後にあきらかになるところは、思わず鳥肌が立ちました。
これは、連載開始時のインタビューでもお答えしたことなんですが、「あしたはひとりにしてくれ」といえるのは、今はひとりじゃないからなんですよね。一見、寂しく思えるタイトルのポジティブさを伝えたかったんです。