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高橋克彦×水谷 豊<br />ドラマ化記念対談<br />天才浮世絵師 歌麿を巡る傑作時代ミステリー!

高橋克彦×水谷 豊
ドラマ化記念対談
天才浮世絵師 歌麿を巡る傑作時代ミステリー!

「本の話」編集部

『かげゑ歌麿』 (高橋克彦 著)

出典 : #本の話
ジャンル : #歴史・時代小説

幕府にも立ち向かった反骨の天才

水谷 今回の作品はいずれも活劇シーンが出てきますが、歌麿は絵師でありながら、実は剣術も強いという設定は、かなり意表をつくものでしょう。絵を描いている歌麿と立ち回りをしているときの歌麿は、別人に見えるくらい人が変わる。最初からそのつもりで演っているので、僕がどこかでスイッチを切り替えているという意識はないんですけれどね。

高橋 でも、たとえば『歌麿』と『相棒』であればまるで違いますし、水谷豊という役者の中のどこかでスイッチを替えているということはあるのでしょう。

水谷 いえ、僕はいつでもノースイッチで、役作りをするという感覚がないんです。それは自分の中にある何かを引き出してきているからだと思います。自分の中には自分でも知らない自分がいて、今回のように『歌麿』によって、新鮮な自分が引き出されてくるのは楽しみでもあるんです。

高橋 それは水谷さんが稀有な役者だからだと思うけれど、小説で新しい歴史上の人物を書こうとするときには、まず史料を徹底的に調べます。そこでその人物が自分と同化したときに初めて小説として書ける。その同化というのは、自分の中にあるものをその相手に近づけるんではなく、相手に自分と同じものを見つけることなんです。歌麿でいえば、もちろんすばらしい才能、ほかの誰にも真似のできない天才的な浮世絵師ということから入るわけですが、調べていくうちに、幕府の嫌がらせともいえる規制に対して、歌麿はいろんな工夫でとにかく抗おうとしていました。

水谷 発想やアイディアに並々ならぬものがありますね。そういう感性も普通じゃありません。

高橋 遊郭の遊女の絵に、見世と女の名前を書いてはいけないと言われれば、文字を使わずに判じ絵でそれを示す。町場の美人を描いてはいけないと触れられれば、海女や養蚕場で働く過程を描いて、実は美人画を描いてみせる。多色刷りを禁じられれば、蚊帳の線を描くのに横の線と縦の線の版木を二枚使うという技術を使う。いずれも人気絵師の歌麿を狙い撃ちした幕府の規制にもかかわらず、それを易々と乗り越えて時代を変えていったというのは、歌麿をおいてほかにはいないんですね。

水谷 なんだか自分が褒められているような妙な気分になってきました(笑)。

高橋 テレビの世界だって、予算や時間などいろいろと制約があるでしょう(笑)。でもだからこそ、知恵というものが試されます。やはり歌麿というのは、困難に立ち向かっていく反骨の人で、それもただ抵抗するだけの人じゃない。絵と徹底的に向き合いながら、自身の思いを深め、強め、高めていく。そこが小説とドラマどちらの歌麿にも重なりますね。

水谷 歌麿の周りには、北町奉行所の仙波一之進と版元の蔦屋重三郎がいますが、この3人の友情もいいですね。それぞれに立場があり、決してべたべたはしない。いちいち喋らないけれど、どこかで互いに相手を思いやるところが大人っぽくて、すばらしいトライアングルだと思いました。

高橋 仙波は小説のキャラクターですが、登場人物は長谷川平蔵、春朗(後の葛飾北斎)や平賀源内にしても、多くが実在の人物です。時代小説であっても、できる限り史実に忠実な時間軸を拵えましたが、結構、困ることもあったんです。年表とつきあわせていくと、この事件は使えない、この出来事はもう過ぎちゃったとね。でも、歌麿と北斎が頻繁に会っていたというのは、今の東京で考えると出来過ぎに思われるかもしれないけれど、実際の江戸は小さい世界で、文化人同士の交流というのは日常的に行われていました。そういう濃密な世界で、色んな人間が集まって話がふくらんでいったのが『だましゑ歌麿』シリーズ(『おこう紅絵暦』『蘭陽きらら舞』ほか文春文庫)です。だから歌麿を主役にした連作をもう書くことはないと思っていたのですが、ドラマの話があって再チャレンジをした結果、さらに歌麿という人間に迫ることができました。読者の方にはドラマとも併せて、その世界を存分に楽しんでいただきたいと願っています。

かげゑ歌麿
高橋克彦・著

定価:1680円(税込) 発売日:2013年07月24日

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